中東レスラーの得意技はキャメルクラッチ

レクイエム・フォー・ドリーム』のダーレン・アロノフスキー監督、ミッキー・ローク主演の『レスラー』は各所で絶賛*1されており、ぼくも観たい映画です。


http://www.wrestler.jp/
(公式サイト)


ミッキー・ローク演じるベテランのインディーズレスラーが、過酷なデスマッチでボロボロになった体にムチ打って、心臓に爆弾を抱えながら復帰戦に臨む、というコクのあるお話。


剃刀によるジュース(流血)や試合前のミーティングなど、プロレスを筋書きのあるショーとして位置づけながら、それでもなお滲み出るプロの凄味を描くというのは近年のプロレスものに欠かせない要素ですが*2、そこに80年代メタルネタも絡めることによって更なる味わい深さを出していますね。



ミッキー・ロークが、RATTの”Round and round”を歌う場面)

Out of the Cellar

Out of the Cellar


ですが、この映画にイランから抗議が来ているそうで。


http://cinematoday.jp/page/N0017167

上映禁止も!映画での侮辱に激怒!イランがハリウッドに謝罪求める

 イランの高官が、ハリウッド映画の中にイランを侮辱する表現があるとして、アメリカに謝罪を求めている。ミッキー・ローク主演の『レスラー』では、イランの旗でミッキー・ローク演じるプロレスラーの首をしめようとする「ジ・アヤトラー(イスラムシーア派の指導者の尊称)」というレスラーが登場することから、イラン国内では上映禁止となった。

イラン人レスラーといえばアイアン・シークが有名ですね。この人も、カール・ゴッチの推薦により本名のコシロ・バジリでデビューした当時は真面目なスティッフ(堅物)レスラーでしたが、アイアン・シークの名で悪役に転向してからブレイクを果たしました。WWFに参戦してからの、ボブ・バックランドやハルク・ホーガンといったアメリカン・レスラーとの抗争は、民族性をカリカチュアライズして見せる「エスニック・スポーツ」というプロレスの一面をよく表していました。


WWFはこういう路線が好きで、1990年に湾岸戦争が勃発したときは、それまで鬼軍曹キャラのベビーフェイスだったサージェント・スローターを、イラク軍に寝返った男というキャラ設定で悪役に転向させ、イラン人のアイアン・シークも「カーネル・ムスタファ」という新キャラでマネージャーとなり、星条旗を背負ったハルク・ホーガンとの抗争でファンを熱狂せしめました。


ところが、このあまりに戯画化された戦争ネタは「不謹慎だ」としてメディアの激しいバッシングに遭い、戦争終結後は、このアングルは封印されたのでした。


『レスラー』での悪役イラン人ネタは、この辺の事実を元にしているのは間違いないでしょう。ブルージーな味わいをいや増すのですが、現代のポリティカリー・コレクトネスに照らして見れば問題になるのも止むを得ないのでしょうか。

異人たちのハリウッド―「民族」をキーワードに読み解くアメリカ映画史

異人たちのハリウッド―「民族」をキーワードに読み解くアメリカ映画史

「プロレスと民族性」については、この本で流智美氏が書いた稿が非常に参考になりますので、興味のあるかたは是非ご一読を。

*1:http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20081230http://d.hatena.ne.jp/yamazaki666/20090105/p1など

*2:ヤングマガジン」には、そういう切り口で描かれたプロレスものが、ストーリー漫画とギャグ漫画と二本同時に載っている。ボクシングや総合、空手も含めるとリングで戦うプロが主人公の漫画が五本も同時に連載されているという、漫画史上まれに見る偏差値の低さである