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臨床真理 (このミス大賞受賞作)

臨床真理 (このミス大賞受賞作)

第七回の「このミステリーがすごい!大賞」を受賞した、柚月裕子さんの『臨床真理』を読みました。


1月11日に天童市でサイン会があり、そのときに買ったものです。

あらすじは以下のとおりです。

 知的障害者入所施設で、失語症の少女が手首を切って自殺した。
 彼女と親しかった入所者の青年は、担当の臨床心理士に「彼女は殺されたんだ」と語る。
 彼の治療のため、臨床心理士の美帆は事件について調べていく。
 そこには、おぞましい真相が隠されていた…

ミステリとして見れば、謎の構成が弱い(「探偵」「犯人」「被害者」以外の人物がほとんど出てこない)という感はありますが、人物や心理の描写が丁寧で、テーマ的にも骨太で、読ませる力がありました。


※以下ネタバレ
























この小説では、福祉施設の職員が、障害者の就職を斡旋する機関の役員に入所者の少女を抱かせ、その見返りとして優先的に企業に紹介してもらっていた、というグロテスクな真相が描かれています。


「障害者福祉利権」*1、「知的障害者の性的搾取」*2という醜悪なテーマは、昨今話題の海外同人ゲーム「かたわ少女」とネガとポジの関係にある、と言えなくもないというか。


http://www.katawa-shoujo.com/
(↑それにしても、迫力のあるドメインではある。いつの間にか日本語にも対応しているが、耳の不自由な少女に「静音」と名付けるあたりのセンスも含めて味わい深い)


こちらのゲームでは、身体障害を抱える少女たちとのふれ合いが描かれる予定だそうで、それはそれでいいと思うのですが、『臨床真理』では、障害者の多くが直面せざるを得ない、権力と抑圧の構造を抉り出しているので、萌えの方々にはこちら方面からの考察も忘れないでほしいですね。



重いテーマの話はこれくらいにして。


作品の後半で、主人公の臨床心理士は、失語症の少女がUSBメモリに残していた誤字だらけの文章を入手し、その誤字を修正して解読します。


似ている字を置き換えて(「き」と「さ」、「に」と「こ」、「は」と「ほ」など)入力し直していくあたりは、ぼくぐらいのファミコン世代からすると、ドラクエ2』とかでパスワードを写しまちがえたときの経験を思い出すものがあり、なんとも共感を覚えずにはいられなかったといいますか。

ドラゴンクエストII

ドラゴンクエストII

*1:障害者を雇用すると、その障害の程度に応じて自治体から企業に補助金が出る。そこで、障害の程度を実際より重めに査定することによって、企業にとっては使いやすく、かつ補助金も多く貰えるお得な障害者が出来上がる

*2:施設長は「障害者にも性欲はある。彼女たちも楽しんでいるし、みんなのためになるのだ」と語る。これはペドフィリアの言い訳とまったく同じで、この作品中でもとくにグロテスクな物言いである