アミルスタン羊の二瓶のソースがけ

今年の五月ごろから、このブログのアクセス解析をすると

アミルスタン羊の二瓶のソースがけ


という語で検索してくる人が、一日に数人ぐらいはコンスタントにいます。


なんでそんな語で検索するのかなぁ、と思ったら、『クロノベルト』というエロゲの中にそういう台詞が出てきて、「知らない人は検索してみよう!」とまで言ってるそうなんですね。

クロノベルト -あやかしびと&BulletButlers クロスオーバーディスク-

クロノベルト -あやかしびと&BulletButlers クロスオーバーディスク-

これは、学園青春恋愛伝奇バトルADV『あやかしびと』と、銃と魔法と執事と主のファンタジーADV『Bullet Butlers』(訳して『弾丸執事』)のクロスオーバー作品で、東出祐一郎というシナリオライターによる、ハードボイルドでジョン・ウー学校風味なシナリオが評判だそうです。

あやかしびと-幻妖見聞録-【BestSelection】

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Bullet Butlers〜虎は弾丸のごとく疾駆する〜(1) (ガガガ文庫 (ガひ1-1))

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んで、「アミルスタン羊の二瓶のソースがけ」ですが、前に取り上げたときはザックリしすぎてたので、今日はきっちり解説しておきます。


まずは「アミルスタン羊」。

特別料理 (異色作家短篇集)

特別料理 (異色作家短篇集)

これは、アメリカの推理小説家、スタンリイ・エリン(1916-1986)の処女作『特別料理』に登場する、ヒミツの食材です。


主人公のコステインは、上司ラフラーに連れられて”スピローズ”というこじんまりとしたレストランに行きます。


”スピローズ”は、酒は料理の味を損なうとして飲み物は水のみ、テーブルには塩コショウなど調味料の類は一切なくタバコも禁止、メニューは日替わりのコース一種のみで問い合わせ一切不可、という海原雄山みたいな店ですがその美味は他の追随を許さず、コステインはこの店のとりこになります。


そしてある日、めったに出ないというこの店の最大の名物「アミルスタン羊」が供されました。


その味は、単に美味であるというのみならず、人がその心の奥底を見つめるような深遠なもので、コステインは陶然となりますが、ふと、いつも見かける常連客が来なくなっていることに気付きます。


そして、ラフラーはこの店の客にとって最大の栄誉である、キッチンを見せてもらう機会を得ます。それは、彼が長期出張に出かける前日のことでした。


悔しがるコステインの前で、シェフのスピローはラフラーの肉付きのいい肩に手をかけ、キッチンへと案内する…


そこでこの小説は終わります。意味はわかりますよね。



ちなみに、六本木には実際に”スピローズ”というレストランがあります。

http://www.spyros.jp/index.cgi


こちらはギリシャ料理のお店で、お酒も各種ちゃんと出ますし、アミルスタン羊は出ません。



そんでもって、今度は『二瓶のソース』

世界短編傑作集 3 (創元推理文庫 100-3)

世界短編傑作集 3 (創元推理文庫 100-3)

こちらは、イギリスの作家、ロード・ダンセイニ(1878-1957)による短編小説のタイトルです。


ダンセイニは、アーシュラ・K・ル=グィンやH・P・ラヴクラフトにも影響を与えた幻想小説家として知られ、荒俣宏のかつての筆名「団精二」の元にもなった人ですが、江戸川乱歩が「奇妙な味」と評した推理小説の短編もいくつか書いています。この『二壜のソース』(創元推理文庫の本ではこの「壜」の字が使われている)は、中でも最も有名な作品です。


悪漢スティーガアとともに暮らしていた女性ナンシーが失踪し、その持参金も行方不明となりました。

ティーガアが殺害した疑いがきわめて濃厚ですが、死体が見つかりません。


ナンシーが失踪して以来、スティーガアはまったく外出もせず、日がな一日まき割りをして過ごしています。が、そのまきを何かに使った形跡はありません。


また、スティーガアはベジタリアンなのか野菜しか買わず、それでいて肉料理用の調味料「ナムヌモ・ソース」を二壜も買っています。


ティーガアにナムヌモ・ソースを売った、セールスマンのスミザースは、この奇妙な事件を同居人の素人探偵リンリイに話して聞かせ、彼の興味をひき、調査に乗り出します。


そして、現地の状況と、ナムヌモ・ソースは野菜料理にまったく合わないということを知ったリンリイは、ついにその真相にたどり着きました。


警部に「スティーガアはなぜ使いもしないのにまき割りをしていたのだろう」と問われたリンリイが、「ただ食欲をつけるためですよ」と答える、その場面でこの小説は終わります。意味はわかりますよね。



というわけで、「アミルスタン羊の二瓶のソースがけ」でした。おわかりいただけましたね?

図説 食人全書

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