被虐の受太刀

ファミ通に連載されている、みずしな孝之の『いい電子』でこのゲームが紹介されてたのを見ました。

SIMPLE2000シリーズ Vol.118 THE 落武者 ~怒獲武サムライ登場~

SIMPLE2000シリーズ Vol.118 THE 落武者 ~怒獲武サムライ登場~

怨霊となって復活した明智光秀が、攻撃されると強くなる「怒獲武」(ドエム)の力を武器として宿敵豊臣秀吉に立ち向かう、というもの。


ドM侍、っていうと異様な響きですが、考えてみれば封建社会の完成形は少数のサディストと多数のマゾヒストによって構成されるわけで。


シグルイ』の原作となった南條範夫先生の『駿河城御前試合』では、藤木と伊良子の勝負に続く第二試合として、受太刀の達人・座波間左衛門と、その従妹である磯田きぬの試合が行われます。

駿河城御前試合 (1983年) (河出文庫)

駿河城御前試合 (1983年) (河出文庫)

間左衛門は、顔といわず体といわず全身刀傷だらけの異様な武芸者。


というのも、彼は美女や美少年に斬られることで快感を覚えるドM剣士であり、さんざん斬られて血みどろになりながら、最後の一太刀で対手を斬り殺す瞬間にエクスタシーに達するという超ハイレベルな変態なのでありました。


彼がMに開眼したのは9歳のころ。


両親を亡くし叔父に引き取られた間左衛門は、美しい叔母なほにいたずらを繰り返し、怒った叔母にその手を櫛で突かれました。

手から血が流れたその時、妖しい興奮を感じた間左衛門。

それ以来、叔母の娘(つまり自分の従妹)きぬに頼んで自分の背中を小刀で切ってもらう、という奇行にふけるようになります。


この性癖がばれ、激しく叱責された間左衛門は剣術の修行に打ち込み、めきめき腕を上げますが、道場でもその性癖は変わらず、対手が美少年、ことになほ叔母に似た顔立ちの少年だと別人のようにだらしなくなり、わざと打たせては怪我をするのでした。


長じて、大坂夏の陣で奮戦した間左衛門ですが、そこでも敵が美少年だとわざと苦戦して斬られるため、「敵と通じているのでは」と疑いをかけられる始末。


そのため仕官の口もなく、諸国を放浪しながら剣の修行を続け、今川流受太刀の極意を会得します。

これは、凡ゆる攻撃を受けの一点張りで踏みこたえ、敵の疲れに乗じて一撃で仕留めるという、まさに間左衛門にピッタリの秘法。


この極意を用い、幾度かの決闘(対手は美少年に限る)を恍惚の中に戦った間左衛門。


あるとき、従妹きぬと十三年ぶりに再会しますが、彼女が叔母なほに瓜二つの美女に成長していたのを見て、

「きぬに斬られたい、そして、きぬを斬りたい」

という執念にとり憑かれてしまいます。


この呪わしい想いから逃れようと、神社にお百度を踏んで水垢離をしたり、脱藩して姿を消そうかと考えたりもしますが、斬られたい、斬りたいという願望は日に日に増すばかり。


ついには、彼女の夫を挑発して自分に斬りかからせ、返す刀でこれを斬殺。

挑発が巧みだったためお咎めなしとなりますが、未亡人となったきぬから仇討ちの請願が出され、藩主徳川忠長がこれを御前試合の第二としてスケジュールに組み込んだのでした。


この策略によって、ついにきぬと相対した間左衛門。


白装束に薙刀を抱え、必死の覚悟を決めたきぬの、その姿の美しさに恍惚となります。



ドM剣士と美女によるMの黙示録、その結末は原作を参照されたし。