ガール・フロム・マーズ

昨日より続く。



現代の萌えオタにしばしば見られる特徴として「純潔にこだわる」というものがあります。


下級生2」や「はじめてのおるすばん」といったエロゲで、ゲーム開始の時点でヒロインがヴァージンでないという設定に激怒したファンが、容認するファンとの間で血で血を洗う凄惨きわまりない内ゲバを繰り広げたというのは記憶に新しいところです。

下級生2(1)たまき編 (ソフガレノベルズ)

下級生2(1)たまき編 (ソフガレノベルズ)

はじめてのおるすばん ~リニューアル~

はじめてのおるすばん ~リニューアル~


また、にったじゅん先生のエロ漫画における名台詞に象徴されるように、童貞というものに妙なこだわりを見せる人も少なくありません。

(↑この女の子たちは「キモーイガールズ」と呼ばれ、コラのネタとして大活躍しました)



とくに非モテ喪男系の掲示板やブログを見ていると、あまりの童貞力が渦巻いているその磁場に当てられて、まるでようかん三本をイッキ喰いしたかのような胸焼けに襲われることもしばしばです。



しかし、こういうこだわりは最近になって出てきたものではなく、これも夢野久作がすでに先鞭を付けていました。

少女地獄 (角川文庫)

少女地獄 (角川文庫)

この短編集には、そのものズバリ「童貞」という作品が収録されています。

…天才的ピアニスト…

…童貞…

…肺病…

…乞食…

…死…

それは彼自身だけが知っている彼自身の運命の標示であった。

音楽のみに打ち込み、異性と触れ合ったら死ぬと固く信じて生きてきた若きピアニストが、肺病を患ってホームレスに落ちぶれる。


ある時、逃亡中の女犯罪者と関わり、誘惑されるが…


という話です。


未熟な男性が持つ、女性への恐怖が非常によく描かれていますね。


おたくの気質は、この小説が書かれた昭和五年にはすでに完成されていたってことなんでしょうか。


また、処女へのこだわり・迷信も久作作品には散見されます。


表題作「少女地獄」は三部構成になっていますが、そのうちの一つ「火星の女」はその代表といえるでしょう。

火星の女 (夢野久作の少女地獄) [DVD]

火星の女 (夢野久作の少女地獄) [DVD]

この短編のヒロインは、長身の天才アスリートにして「火星さん」の異名を持つ醜少女の女学生、歌枝。

しかし、外見とは裏腹に純粋で可憐な内面を持っています。


その彼女が。

女学校の校長たちが、学校の片隅にある廃屋を根城としてさまざまな不正を行っていることを知ってしまいます。


そして、その廃屋の暗闇の中、校長の愛人である美少女と間違われて抱かれてしまうのです。


ふつう、いくら真っ暗だからって触ればわかるだろうと思うのですが、まぁその辺は校長のおおらかな性格ゆえのことだろうということにしておきます。


そうして、はじめて女らしく扱われたという経験から校長先生への道ならぬ愛に悩まされるようになった火星たん。


恋の病で寝込んでしまい、お医者さんの往診を受けるのですが、そのときの血液検査により、彼女が処女でないということがわかるのでした。



…血液のどんな成分で性経験の有無がわかるんだ?

昔は、性交によって男性の体液が女性の体に吸収される、という迷信が信じられていたようですが、仮にも科学的であることを旨とする探偵小説家が、そんな脳内情報だけで創作しててもよかったんでしょうか。


精神科のことにはくわしかったのにねぇ。