油は答えを知っているか

サンマーク出版のサイトを見ると、「水は答えを知っている」が、テレビで紹介されたために在庫僅少とのこと。

水は答えを知っている―その結晶にこめられたメッセージ

水は答えを知っている―その結晶にこめられたメッセージ

これを紹介した番組というのが、6月2日、倖田來未をゲストにTBS系で放送された「金スマ」。


倖田嬢が一日教師となり、女子高生たちに人生訓と恋愛訓をとうとうと語るという、とくに新味のない内容だったのですが、そこで取り上げたのがお水様理論。

  • 水に褒め言葉をかけて凍らせると、美しい結晶を作る。
  • 人体の70%は水である。
  • なので、人間に褒め言葉をかけると、水分が反応してキレイになる。
  • 芸能人がキレイなのは、みんなから「キレイだね」「かわいいね」とチヤホヤされるからである。
  • だからみんなも、いっぱい恋をして、いっぱい「キレイだね」「かわいいね」て言うてもらわなあかんよ。


番組を見た限りでは、生徒たちに、疑うようなリアクションはまったく見られませんでした。



お水様理論は美容と結び付けて語られることが多く、ダイエット自慢の倖田嬢は、以前からこの話をよくしています。

http://www007.upp.so-net.ne.jp/iitomo/2005/20051021.htm
↑これは、2005年に「笑っていいとも!」テレフォンショッキングにゲスト出演したときのログ。
この頃から、お水様への傾倒が見られます。


おそらく、元になったのはこの本でしょう。

美人画報 ワンダー

美人画報 ワンダー

この本の中で、安野モヨコさんがお水様理論を紹介されています。
この影響はかなり大きいでしょう。


ところで。



人体の70%は水ですが、10%〜30%ぐらいは脂肪でできているわけでしょ。

脂肪と言う名の服を着て 完全版

脂肪と言う名の服を着て 完全版


油に言葉をかけて、固めるテンプルで凝結させるとどんな形を作るんでしょうか。


「水と油」っていうくらいですから、きっと油は逆にネガティヴ志向で、「キレイだよ」と言われても「どうせ私なんか…」といじけ、「ありがとう」と言われても「何がありがたいのよ、何にもわかってないくせに…」と落ち込み、結局はどんどん醜くなっていくんじゃないでしょうかね。


そうなると、豚の大腿骨を長時間じっくりと煮出し、脂肪分とゼラチン質を溶け込ませて乳化させた、濃厚とんこつスープなんかはいったいどんな反応を示すんでしょうか。


きっと、「おいしいね」「意外と臭くないね」などと言われるとキレイになり、「しつこいよ」「ケモノ臭いよ」と言われると汚くなるんでしょう。



こういう話を、「常に感謝する、謙虚な心を忘れない」という道徳的なものとして捉える人も多いようですが、それって逆に、人間の感覚、自分の好き嫌いを他人にも通用させようとする傲慢さなんじゃないですかね。


クトゥルー神話を創造したH・P・ラヴクラフトは、その恐怖の源泉を、「宇宙が人類に好意的な原理で動いている理由など何もない」「人類の意思も道徳も宇宙には通用しない」というところに置いていました。

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

しかし、ラヴクラフトの死後にそれを継承したオーガスト・ダーレスは、善なる「旧神」と悪の「旧支配者」という、人類中心の対立構造を持ち込み、師匠の遺志を台無しにしてしまった、と批判されています。
クトゥルー〈2〉 (暗黒神話大系シリーズ)

クトゥルー〈2〉 (暗黒神話大系シリーズ)


人間の言葉とか心とか、同じ人間どうしですらそう簡単に通じ合うものでないのに、水や物体にそれが通じると思うのは独善です。


ショゴスに何を言ったところで「テケリ・リ!」としか答えないんです。