処置室では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない

最近、はてな界隈では「中絶」がホットらしいです。

勝手にしやがれ

勝手にしやがれ

パンク的にはやっぱり「Bodies」ですね。Fxxk this and Fxxk that!


それはさておき。



日野日出志先生の作品に「水色の部屋」という短編があります。

若い夫婦が、経済的事情により中絶をする。
それ以来、夫婦は胎児の幻影に悩まされる。


「さ…寒いよう 暗いよう どうしておれをこんな冷たい闇の中へほうり出したんだよう
あの栄養の絶え間なく流れ込んでくる 暖かい母胎へ帰りたい 帰りたいよう」


妻は精神に異常をきたしていたのだった。

(↑いま手元にないのでセリフはうろ覚えです)
中絶反対派も容認派も必ずブルーになるという破壊力満点の作品です。
この作品が収録されていた単行本が、「胎児異変 わたしの赤ちゃん」でした。(ひばり書房より刊行、現在は絶版)

人間の母親から、トカゲやサルの赤ちゃんが生まれるようになり、もはや人間が人間を生めなくなるというストーリーの表題作。当時の日野先生はこういうモチーフを選んでいたんでしょうか。


この本、友人のid:dd00269968くんのうちで読ませてもらったのですが、当時、彼の奥さんが妊娠中だったので、「胎教に最悪」と思ったのを覚えています。


その子も今はつかまり立ちをするようになりました。よかったよかった。



「わたしの赤ちゃん」は、現在はこちらに収録されています。

地獄の子守唄 (マジカルホラー (3))

地獄の子守唄 (マジカルホラー (3))


ホラー的には、「望まない妊娠」を描いたものは多くありますね。

ローズマリーの赤ちゃん [DVD]

ローズマリーの赤ちゃん [DVD]

オカルト映画ブームの火付け役となった「ローズマリーの赤ちゃん」なんかは、マタニティブルーをそのまま映像化したようなニューロティックさがありました。


もう少し暴力的な表現に目を向けると、「エイリアン」における「体内に卵を産み付けられる」という恐怖が、女性が持っている「レイプと妊娠への恐怖」である、という指摘は昔からよくなされています。

エイリアンの頭の形状や、ぬらぬらした体表も男性器を思わせるものがありますしね。


また、夫の側から見た「望んでいない妊娠」を描いた作品には、デヴィッド・クローネンバーグの「ザ・ブルード 怒りのメタファー」があります。

「悪魔の赤ちゃん」は、「避妊の失敗によって、怪物化した子供が生まれる」という、ちょっと宗教右派的ともいえる設定を持っています。

悪魔の赤ちゃん [DVD]

悪魔の赤ちゃん [DVD]



親になるというのは、父親にとっても母親にとっても不安なことなのでしょうね。

エクソシスト ディレクターズカット版 [DVD]

エクソシスト ディレクターズカット版 [DVD]

オーメン〈特別編〉 [DVD]

オーメン〈特別編〉 [DVD]

ローズマリーの赤ちゃん」と並んで、オカルトホラーの代表作といわれるこれらの作品も、テーマとしては「親子の断絶」を描いています。

人生の悲劇の第一章は親子となったことにはじまっている

芥川龍之介侏儒の言葉』)


さてさて。



どうもここ数日の中絶に関する言及を見ると、「レイプされて妊娠した場合の中絶は是か非か」みたいなのが問題になってるらしいです。

それって、「チェストバスターは摘出すべきか否か」ってことですか。

あと、こちらの記事のコメント欄なんか見ますと、「本気で抵抗しない女も悪い」なんて論調もまだ生き残っているようです。


そういう人は、本当の暴力というものの恐ろしさを知るためにこちらを見るといいでしょう。


男と女の間には、前田日明と坂田亘くらいの戦闘能力の差があるもんなんですよ。