消えた奇術師

岡山市の女性派遣社員殺害事件で、容疑者が常人には思いも付かないような動機を供述しているとか。


http://mytown.asahi.com/okayama/news.php?k_id=34000001110280001

27歳女性殺害/元交際女性の破局狙う

■容疑者弁護士に監禁目的主張

 「以前交際していた女性と、会社関係者の男性の結婚を破綻(は・たん)させたかった」。派遣社員の加藤みささん(当時27)が殺害された事件で、殺人罪などで起訴された住田紘一容疑者(29)の弁護士が27日、岡山市で会見を開いた。身勝手な動機の一端が明らかになった。
 会見を開いたのは、主任弁護人を務める杉山雄一弁護士と浜崎一弁護士。事件の経過を説明した。
 両弁護士によると、岡山市北区のIT関連会社に勤めていた住田容疑者には以前、会社関係者の交際女性がいた。その女性と、同じく会社関係者の男性との結婚話を聞き、「男性と面識のある会社の女性を連れ去り、男性の仕業に見せかければ、2人の関係を破綻させられると考えた」と供述しているという。
 どうやって男性の仕業に見せかけようとしたのかについては「公判で明らかにする」とした。
 事件があった9月30日夕、住田容疑者は「倉庫の中で見てもらいたいものがある」と言って加藤さんを倉庫に呼び出した。拉致のために手錠や足錠、口を塞ぐための粘着テープ、女性を閉じこめるための大型の箱なども用意。「大阪の自宅で監禁し、その後解放するつもりだった」と話しているという。
 凶器のバタフライナイフについては、住田容疑者は「約10年前から護身用のために所持していた」と説明している。
 弁護士は「当初は監禁するつもりだったが、予期していなかった被害者の抵抗に気が動転し、殺してしまった」として、公判で殺害が計画的ではなかったと主張する方針という。(西山良太、藤原学思)

フィクションでは、他人を陥れるために殺人を犯す話がままありますが、実際にやろうとするとそううまくはいかないようですね。偽装工作については「公判で明らかにする」とのことですが、自分が顔を見せて誘い出しておいてどうするつもりだったんでしょうか。それじゃどうしたって自分は捕まるでしょ。自分が捕まって「アイツに命令されたんだ」とでも供述するつもりだったんでしょうか。そんなんでうまくいくわきゃねえのに。被害者を監禁して解放するつもりだった、というのも杜撰すぎ。ナイフ持ってた時点で計画的殺意があったと考えざるを得ません。「閉じ込めるための大型の箱」なんて用意したって、どうやって入れてどうやって出すつもりだったんでしょうか。

地下室の箱 (扶桑社ミステリー)

地下室の箱 (扶桑社ミステリー)


被害者の遺体をバラバラにしてあちこちに捨てるのも不合理すぎるし(3箇所に捨てたら見つかる確率は3倍になる、この当たり前のことがどうしてわからないのか)とにかく頭の悪い犯罪というか、目的と手段と結果がバラバラすぎて話にもなりません。


この被告には、獄中で鮎川哲也でも読んでもらいたいと思いますね!

消えた奇術師  星影龍三シリーズ (光文社文庫)

消えた奇術師 星影龍三シリーズ (光文社文庫)

(以下ネタバレ)



























鬼貫警部を主人公にしたアリバイ崩しものを多く書いた鮎川哲也には、鬼貫とは正反対のスマートな名探偵、星影龍三を主人公にしたシリーズもあり、数は多くありませんが密室トリックを扱った作品もあります。


この短編集『消えた奇術師』には、密室三部作といわれる「赤い密室」「白い密室」「青い密室」が収録されていますが、鮎川は密室ものは不得手とみえ「白」「青」は正直いって凡作です。ですが、三部作の最初に発表された「赤い密室」は非の打ち所のない完璧な傑作です。


何がすごいといって、古今東西の密室ものには、現場を密室にする必然性が薄い作品も少なくないのですが、この「赤い密室」ではしっかり必然性があることです。


医学部の解剖室で発見された、美女のバラバラ死体。一部はどこかへ送ろうと梱包して荷札までついている、というあたりはいかにも鮎川哲也らしいというか。

黒いトランク (創元推理文庫)

黒いトランク (創元推理文庫)

解剖室の扉は前日にしっかり施錠されており、鍵を持っている人物はひとりだけ。つまり、鍵を持った人物が疑われるように仕向けてあるわけですね。関係者は被害者も含めてそれぞれ険悪な関係にあり、誰が誰を陥れてもおかしくありません。
鍵を持っていた人物は最も不利な立場になり、アリバイ証明のため自分の不行状を告白せざるを得なくなります。実はこれが犯人の狙いで、殺人の罪を着せるもよし、スキャンダルを告白させるもよし。ここに密室の必然性があるわけです。


解剖室でバラバラ死体が見つかる、という舞台設定もすばらしい。誰が見ても、ここで死体を解体したのだろうと思わせる導入部です。不自然さを感じさせません。と思わせて実は……というトリックも、機械的操作などを使わない、心理的な盲点をついていてうならされます。死体は実は外部から運び込むためにバラバラにされたもので、しかも持ち込みを時間差で行うことで死体解体という猟奇的な題材に合理性と必然性を与えています。死体のパーツを包んだ新聞紙の日付を使ってアリバイ工作をするあたりもいかにも鮎川哲也らしく、一見して猟奇殺人と見えた事件が実は緻密な計算に基づいており、ミスディレクションも巧みで、真相を暴く星影探偵の推理もまことに鮮やか。


今回の事件と「赤い密室」に共通するのは、ある男性に罪を着せるためにその知人女性を殺害してバラバラにするというアウトラインだけですが、いずれにせよ、殺された女性は何にも悪くないわけで、卑劣な犯人に法の厳しい裁きのあらんことを。