プロレスファン烈伝

徳光康之の『最狂超プロレスファン烈伝』5.1巻を読みました。

プロレスファンたちの狂った日常を描き、90年代に(ごく一部のマニア層で)一世を風靡した作品の、16年ぶりとなる完全新作。


月刊少年マガジン連載時の1993年には「全団体参加のオールスター興行が開催される当日に、何の脈絡もなく戦争が始まって会場の東京ドームが破壊される」という酷い打ち切りで最終回を迎え、7年後にはまんだらけから描き下ろしで幻の4巻が発売。



そこでは「核攻撃のショックでプロレス研の面々がパラレルワールドや荒廃した未来へ飛ばされる」という大枠のもと、プロレスへの熱意を失った作者の苦悩が描かれるという、メタ構造による非常に難解なストーリーが展開され、2000年当時のファンは困惑したものの、少なくない数のプロレスファンが同じような挫折を味わった現在となっては、評価が逆転し作者の最高傑作とすら言われています。


そして、2015年には作者自身による電子化がなされ、さまざまな雑誌に掲載した短篇をまとめて「4.5巻」が発売。ここから続き、今回「5.1巻」の発表となったのでありました。


4.5巻以降は最近になって描かれたものなので、90年代当時の熱狂についても冷静に振り返ることができており、とくにターザン山本の煽動に乗りすぎたことへの反省がみられます。
そこで、5.1巻では天龍ファンが主人公で、1993年の「戦争で東京ドームが破壊された世界」から2015年の現実世界、天龍源一郎引退試合当日へ飛ばされるという物語になっていました。


1993年当時の作者は週プロ派で、SWSの田中八郎社長(当時)をモデルにしたキャラは、プロレス界を私物化せんとする金満家という、半ば誹謗中傷に近い設定で描かれていました。その田中社長も亡くなり、天龍も引退した現在に、あの当時から続く話を書くのであれば、やはりこの辺の総括と清算を避けて通るわけにはいかんのだなあ。



まぁ、5.1巻はページ数も少なく、ストーリー展開はまだまだこれから続いていくでしょう。ページ数の割には値段が高めですが、これは連載媒体がなく原稿料収入もない作者が生活するためなので、クラウドファンディングみたいなものだと考えることにします。