一億と二千年あとも愛してる
選択的夫婦別姓をめぐる議論が盛り上がっていますが、このところ保守派論客への転身を図っている小藪千豊が(他人のことを「イキっとる」と断じる彼の芸風はまさしく「出る杭は打たれる」「長いものには巻かれろ」精神の発露で実に日本的だと思うが、よしもと新喜劇の座長という職務はそういう価値観と相性がよさそうだ)テレビ番組で反対意見(というか賛成派に対する中傷)をしています。
小藪千豊が夫婦別姓をドヤ顔で猛批判! 「夫婦同姓は何億年続く日本の伝統」「別姓を主張する女は不幸になる」|LITERA/リテラ 本と雑誌の知を再発見
なお、「何億年」というのは聞き取りミスで実際には「何億人」だ、と小藪本人が訂正しています。
これ何億年じゃないよ
何億人だよ
滑舌悪かったすね、すんません
日本は2600年やもんね
@cyzo: 小藪千豊が夫婦別姓をドヤ顔で猛批判! 「夫婦同姓は何億年続く日本の伝統」「別姓を主張する女は不幸になる」【LITERA】https://t.co/sfkDr1we7X
— 小籔千豊(吉本新喜劇) (@koyabukazutoyo) 2015, 12月 2
まぁそりゃそうでしょう。1億年以上前の人間といったら誰もがピクルを思い出すでしょうが(バキファンの偏った認識)、彼には苗字どころかちゃんとした名前すらありません。「ピクル」というのは、彼を発掘した研究者が、塩漬けになっていたことからつけた呼び名でしかないです。
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というか、皇紀を持ち出して日本の歴史を主張する人ってたいてい「2600年」って言うんですけど、正確には(神武天皇紀元暦に「正確」というツッコミが意味を持つかどうかは別にして)もう2675年で、四捨五入すればとっくに2700年ですよね。なのにあえて「2600年」にこだわるってのは、実際には民族の歴史の長さを誇っているというより、昭和15年当時の国家総動員体制と国家神道による全体主義を称揚しているにすぎません。
18世紀ヨーロッパの社交界で「不老不死」を名乗り、4000歳と自称していた怪人サン=ジェルマン伯爵は、徹底したミスティフィカシオンの逸話がいくつもつたわっています。そのひとつに、ある人がサン=ジェルマンの執事に「お前の主人はほら吹きだ」と言ったところ「さようでございます。わたくしが伯爵さまにお仕えするようになった100年前には、伯爵さまは『自分は3000年生きている』と仰っておりました。それがいつの間にか4000年になりましたので、勘違いしてどこかで900年分余計に数えていらっしゃるか、それとも嘘をついているのでしょう」と答えた、というエピソードがありますが、好意的に解釈するとすれば、おそらくその執事が使えていた時期に、伯爵は3400歳台から3500歳台になった、ということではないでしょか。18世紀のヨーロッパに「四捨五入」という算術用語があったどうかは寡聞にして知りませんが、長い歴史を誇るにもそれなりのアップデートが必要だということでしょう。
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ところで、リテラの記事中では「夫婦同姓は明治以降の新しい伝統」という指摘がありますが、日本の歴史上で「女性の姓」の扱いってかなり曖昧なところがありますよね。
そもそも近世以前の日本における「姓」や「苗字」「氏」などの制度は複雑で、当時の公文書にある名前と後世の歴史家が呼んだ名前が異なっていることも多く、下手に触れると歴史警察が殺到する分野なのでざっくりとした扱いにとどめますが、たとえば源頼朝の妻である北条政子や、足利義政の妻である日野富子は、歴史上「夫婦別姓」の代表的実例としてよく挙げられます。
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しかし、時代が下って戦国時代の人物になると、明智光秀の娘である珠は、嫁ぎ先の姓と洗礼名を連ねて「細川ガラシャ」と呼ぶのが一般的です。
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また、織田信長の妹で浅井長政や柴田勝家と結婚していたお市の方は、「織田市」や「浅井市」「柴田市」と呼ばれることはないようですし、江戸時代の女性はあまり「苗字+名前」で呼ばれることがありません。この辺の、女性の呼び名をめぐる歴史的経緯ってどうなってるんでしょうね。誰か詳しい人がいたら教えてください。