テクスチュアル・ハラスメント疑惑
ちょっと前のSF文壇を騒がせた話ですけど、「オルタ裁判」ってのがありまして。
1997年に、評論家・翻訳家の山形浩生氏が、「オルタカルチャー日本版」というムック誌上において、評論家の小谷真理氏の著書について、実際には夫の巽孝之氏が書いているのではないかとして「小谷真理が巽孝之のペンネームなのは周知の事実」などと揶揄したんですね。で、小谷氏は山形氏と版元に謝罪文と損害賠償を求める訴訟を起こし(4年後に小谷氏の勝訴で結審)、この揶揄を「歴史的に、女が文章が書くのを男性が抑圧してきた、『テクスチュアル・ハラスメント』の一種だ」と批判したのでありました。
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んで。
最近は、関東大震災における朝鮮人虐殺事件を、存在しなかったなどと否定する動きが活発になっています。南京事件や従軍慰安婦と同じように、ですね。
こういった動きに対するカウンターとして、加藤直樹氏の『九月、東京の路上で』というノンフィクションも出ていますが、Amazonでの評判を見ると、例によって内容を読んでなさそうな人々による星ひとつのレビューがずらりと並んでいて(しかも「このレビューが参考になった」という投票も上位になる)げんなりします。
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否定側からも、こんな本が出ました。
関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった! (WAC BUNKO 203)
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当時の新聞は取材機能が麻痺していたため被災者からの聞き取りをそのまま載せており、「朝鮮人が暴動を起こしている」のみならず「名古屋市も壊滅」とか「富士山爆発」「伊豆七島消滅」などといった、明らかな誤報記事も載っていたんですけどね。
で、実はこの本、以前に産経新聞出版から出た工藤美代子氏(加藤康男氏の妻)の著書『関東大震災「朝鮮人虐殺の真実」』を加筆修正し、著者名を夫名義に改めたものだったんです。
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フィクションの分野では、ディック・フランシスみたく家族で協力して書いてた人もいますけどね。
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どうやら新版は、加藤直樹氏の本で工藤本を批判されたことに対する反論として加筆・再出版されたようなのですが、これも実は妻が書いたものを、論争の矢面に立たせないために夫の名義にした、とかそういうことだったりするんじゃないですかね。本当にそうだとしたら、テクスチュアル・ハラスメントの一種ではありますが、いかにも「保守的な日本の夫婦」って感じがしますねえ。小谷・巽夫妻と同じく夫婦別姓だけどね。
加藤・工藤夫妻に代表される、否定論への反証としては、このサイトも参考になります。
「朝鮮人虐殺はなかった」はなぜデタラメか | 関東大震災時の朝鮮人虐殺を否定するネット上の流言を検証する
それにしても、このサイトのブクマコメントで言ってる人もいますが、こんな常識にまでわざわざ検証サイトが必要になるほど、近代史に関する知的レベルが低下しているのかと思うと、ホントにげんなりしますね。そのうち「真珠湾攻撃はなかった」とか「太平洋戦争はなかった」なんて言い出す人も出てくるかもなあ。