萌(めぐみ)の錬金術師

ことの発端はこのツイートでありました。



岐阜県美濃加茂市観光協会が、地元を舞台にしたラノベ原作アニメ『のうりん』とタイアップしたスタンプラリーの告知をしているんですけど、11月4日に投稿されてから3週間以上を経た今日になって、このポスター画像があまりにも性的だというのでにわかに批判が殺到。ちょっと前の、志摩市の海女キャラ「碧志摩メグ」公認撤回騒動の再現みたいになっておるのです。


この作品はたいへん下ネタが多く、そもそも行政や公的機関とのタイアップには不向きだったとも思われるのですが、原作者と市長が知人だったためアニメの制作に全面協力。2014年の1月からワンクール放送され、その後も地元ではタイアップ事業が継続していたようです。
余談ですが、この事業を推進した藤井浩人市長は、当選時28歳と全国最年少市長として有名でしたが、2014年の6月に収賄容疑で逮捕。しかし本人は身の潔白を訴え容疑を否認し、取り調べ担当の警察官から「自白しないと美濃加茂市を焼け野原にする」と脅されたことを告白するなど徹底抗戦。2015年には無罪判決を勝ち取ったのでありました(検察が控訴したため裁判は継続中)。
で、このスタンプラリーも恒例行事で、去年から始めてすでに4回目。前の回まではもう少し控え目なキャラクターを採用していましたが、今回は巨乳を前面に出しすぎたための炎上となったようです。ちなみに前回はこちら。中心になっているのは、アイドルを引退して農業高校に編入したメインヒロインの「木下林檎」であります。


んで、くだんのポスターでフィーチャーされている巨乳の女性は、畜産クラスのエースで牧場の跡取り娘である、良田胡蝶という人物。農林高校「四天農」のひとり(四天王なのに五人いる、という『クロマティ高校』ふう小ネタもある)で、通称は「ボイン良田」。尊大なお嬢様キャラでありながらいじられるとM性が開花するという、萌えアニメのために生まれてきたような人物(まぁ萌えアニメのキャラだから当たり前なんだけど)であります。設定によればスリーサイズは94・62・85とのことですが、その数字を考慮しても大きすぎるきらいはあります。というか作業をするときにはしっかり安定したブラジャーを着用するべきだと思います。

のうりん5 (GA文庫)

のうりん5 (GA文庫)


(※実際にこのぐらい胸の大きい女性がどういうスリーサイズになるか、日常生活でどのような不都合が生じるかについてはこちらを参照→おっぱいのとても大きい女の子の私生活のまんが - Togetterまとめ おっぱいのとても大きい女の子の私生活のまんが - Togetterまとめ


それで、ですね。



この件で、『のうりん』ファンの方がこんなツイートをしているのを見かけまして。


なんだそれメタすぎるだろ。


というわけで、『のうりん』第6話「萌(めぐみ)の錬金術師」を、バンダイチャンネルの配信で見てみたんです。わざわざこのエントリのために有料で。何やってんだおじさん。
http://www.b-ch.com/ttl/index.php?ttl_c=3987


この第6話では、まず秋田でヒットした萌え米の話題からストーリーが始まります。
JAうご あきたこまち 美少女イラストパッケージ | イラスト 西又葵 JAうご あきたこまち 美少女イラストパッケージ | イラスト 西又葵
主人公の畑耕作や友人たちと、四天農のひとりで流通科学科のエースであるゴス系美少女のマネー金上(なぜか胸の谷間を大きく露出した制服を着ている)は、これをヒントにして農林高校でもヒット商品を生み出そうと、一年を通じて最も安定供給できる鶏卵を、萌えパッケージで売り出すことにします。パッケージのデザインを、実際に『のうりん』原作のイラストを担当するイラストレーターに依頼するというメタなギャグを入れつつ、できあがったのは「イキイキ無精卵、ゴムをつけたときの卵です」というキャッチコピーの商品「もえたま」。イメージキャラクターの美少女「夢星ラン」が「こんなにぬるぬるしてるわたしを食べて」などのきわどいセリフを言うCM動画つきです。まじめな胡蝶は畜産科の責任者としてこのハレンチ路線に反対するのですが、金上の話術に丸め込まれて承諾してしまいます。
「もえたま」は大ヒットして、さらに規模を拡大。イラストレーターに新キャラを発注しますが、ロリ双子のはずが連絡ミスによりお色気お姉さんのイラストができあがってくるというトラブルも発生します。しかしマネー金上は「ならお色気でいこう」とそれを採用。生産責任者の胡蝶もネットやテレビのメディアに引っ張り出されますが、本人は卵の品質をアピールしたいのに「巨乳すぎる畜産女子高生」などと呼ばれ、おっぱいばかり映されるという仕打ちを受けるのでありました。完全に今回の騒動を予言してるやないか! このポスターを批判してる人たちの中には「なぜこんなに胸を強調して、顔を赤らめているのか」という意見もありますが、きっとマネー金上に言いくるめられて恥ずかしがりながらやってる、という設定なんでしょう。



これは何回もネタにしてますけど、もと日経新聞記者で社会学者の鈴木涼美は、大学時代にAV女優の経験があったことを週刊文春に暴露されたわけですが、彼女がAV時代に脚本・監督・主演をつとめたビデオでは、「大手マスコミ記者の女性が、過去の過激な性体験を暴かれる」というストーリーを演じていて、しかもヒロインの勤める会社が「文藝春旬」だったという奇跡のような予言をしていたことがありましたが、今回の『のうりん』もそれに近いものを感じますね。



で、事業が軌道に乗ったところで、金上は「もえたま」の権利を地元農家にゆずり(「学校でやる事業だから売れても自分たちの儲けにはならない。それより、リスクを学校が負ってくれる今のうちにいろいろチャレンジして、人脈を作っておくことが重要だ」という金上の持論はちょっとまじめな話である)、次はターゲットを萌えオタから腐女子に変更してBL商品を開発します。今度は林業工学科と生物工学科のエースに協力を依頼し、「イケメン型に彫った木の苗床の、股間からキノコが生える」というアウトすぎる品物をアングラで売るのですが、購買者のひとりが生徒の母親だったために発覚。耕作は3日間の、首謀者である金上は3週間の停学を言い渡されるのでありました。『のうりん』の世界観では、ヌード描写のないソフトエロはOKでも、ダイレクトな男性器商売はアカンもようです。

不思議の国のペニス

不思議の国のペニス


くだんのポスターで主役となっている胡蝶は、生き物の命を経済活動に使う畜産という業種について真摯に悩んだり、遺伝子組み換え穀物を飼料として与えることの是非について真剣に考えたりもするまじめな人物として描かれていますが(『のうりん』という作品自体が、下ネタやパロディ満載の中に、現実の農業が抱える問題もしっかり盛り込んでいるのである)その身体的特徴ゆえに性的なイコンとして消費され続ける人物でもあります。今日は11月29日、いい肉の日でありますが、それにちなんで『のうりん』原作者の白鳥士郎さんはこんなツイートをしております。


まぁ『のうりん』はそういう作品だってこってす。ちなみにオレ、エロ漫画でよくある(実写AVでもたまにある)「女の身体に卑猥な落書きをする」ネタってぜんぜん興奮しないんですけど、あれってどういう人に需要があるのかなぁ。



あと、主人公の担任教師ベッキー先生(40歳独身)は、結婚できない欲求不満のため生徒にセクハラを繰り返す問題教師という、セクシズム的にもエイジズム的にも女性への偏見の塊のようなキャラクターで、作中でも最も悪質な人物として描かれていますが、父親が県会議員、母親が教育委員会のトップ、叔父が岐阜県警の幹部という家族環境のため、どんな問題行動もすべて揉み消されるのであります。何やら、作者が市長と親しいため下ネタ満載のアニメでも地元とタイアップが成立した、この作品そのものにちょっと通じる構造がなくもないというか。

のうりん 3 (GA文庫)

のうりん 3 (GA文庫)