お前は虎になれ

梶原一騎の漫画には最初期の『チャンピオン太』から遺作『男の星座』に至るまで、実在のプロレスラーやプロ野球選手、空手家などが多く登場し、われわれ梶原チルドレン世代は、そこで実在人物たちが演じたエピソードを、あたかも現実にあったことのように受け容れながら生きてきたわけです。梶原一騎のキャリア後半になると、そのフィクションをさらに現実の世界が取り入れ、そしてその現実の世界をさらにフィクションで描いていく、という高度なメタ化が進行していきました。具体的にいうなら『プロレススーパースター列伝』のタイガーマスク篇がもっとも複雑なメタ構造になっています。

梶原一騎がかつて手がけた漫画『タイガーマスク』。そこにはジャイアント馬場アントニオ猪木、ドン・レオ・ジョナサンやドリー・ファンクJr.といった実在のレスラーたちも登場して、主人公であるタイガーマスクとあるときは戦い、あるときは味方になったりしておりました。そして1981年には続篇の『タイガーマスクII世』がアニメとして制作され、新日本プロレスとのタイアップにより、やはりアントニオ猪木藤波辰爾、スタン・ハンセンやアブドーラ・ザ・ブッチャーといった実在のレスラーが登場します。さらにタイアップは進行し、佐山サトルにアニメと同様のコスチュームを着用させ、実際に「タイガーマスク」としてリングに登場させるに至りました。
この企画は、佐山の高い身体能力と卓越した格闘テクニック、そしてタイガーマスクというキャラクターの持つ圧倒的タレント性により大成功を収め、少年ファンを中心に空前のプロレスブームを巻き起こします。
そして、その経緯を漫画に取り込み、さらにフィクションとしての脚色を加えたのが『プロレススーパースター列伝』でありました。タイガーマスクと、最強の敵ブラック・タイガーの正体をほぼバラしていながら「だが本当にそうかはわからん!」と言い張るあたりは、プロレスというジャンルが持つ「底が丸見えの底なし沼」性を物語っているといえなくもないです。



これまで、オフィシャルに「タイガーマスク」を名乗ったレスラーは5人おり、現在でも「初代タイガーマスク」の佐山サトルと、新日本プロレス所属の4代目(本名非公開)が活躍しているわけです。とくに初代タイガーが果たした功績は非常に大きく、もし佐山サトルが存在しなかったら、現代のプロレスにおける技術体系は、格闘テクニックにおいても、空中殺法など魅せる動きにおいても、まったく違うものになっていたことでしょう。


タイガーマスクが存在しない世界」を描くのは、プロレスを題材にした作品ではとても難しいことです。



それを踏まえて、このニュースを見てみましょう。



「タイガーマスク」アニメ化企画進行 木谷高明氏が明かす、新日本プロレス選手も登場 | アニメ!アニメ! 「タイガーマスク」アニメ化企画進行 木谷高明氏が明かす、新日本プロレス選手も登場 | アニメ!アニメ!

タイガーマスク』のアニメ化企画が進行している。3月3日に、大田区総合体育館で行われたNEW JAPAN CUP 2015にて、新日本プロレスのオーナー、ブシロード代表取締役社長でもある木谷高明が明らかにした。
発表は試合開始前に行われた。往年の名作マンガ『タイガーマスク』のアニメシリーズは、1969年にまず東映動画で制作された。その後『タイガーマスク二世』なども制作されたが、21世紀になってからはテレビアニメシリーズは制作されていない。大きな注目を集めそうだ。

ブシロードは数々のアニメ製作に参加、木谷高明は「ミルキィホームズ」シリーズの原案、製作総指揮などでもアニメファンにお馴染みだ。
発表によればアニメには新日本プロレス所属の選手が実名で登場するとのこと現代ならではの『タイガーマスク』が描かれるだろう。新日本プロレスの公式サイトではオカダカズチカ選手とタイガーマスクが睨み合うビジュアルも登場している。

タイガーマスク』は、漫画:辻なおき、原作:梶原一騎で1960年代から70年代にかけて「週刊少年マガジン」などに連載された。プロレスブームや、当時人気を博したスポーツマンガのひとつとして大人気を博した。
悪役レスラー養成機関 虎の穴で教育を受けた孤児院育つの伊達直人が、虎の穴を裏切り、その刺客を相手に壮絶な試合を続ける。アニメから飛び出して、実在のレスラーであるタイガーマスクがプロレス界にデビューするなど、日本のプロレス界ともつながりが深い。

これ、いま新日本のリングに上がってる4代目タイガーマスクはどう思ってるんでしょうね。


いま「タイガーマスク」と言ったら4代目のことを指すわけですが、正直なところ、彼はもう45歳で、新日本プロレスジュニアヘビー級戦線において主役級とは言い難い、世代がひとつ上のレスラーです。彼を主役にするとは思えないので、となると、まったく別人の「タイガーマスク」が登場することになるのでしょう。


ということは、今度の新アニメは『タイガーマスク』『タイガーマスクII世』の世界観の延長線上で作られるのか、はたまたまったく新しい世界観になるのか。その場合も、新日本プロレスの選手は登場するけど、その「新日本プロレス」は佐山サトルが存在しない世界」の「新日本プロレスということになるのか。虎のマスクを中心にして、いくつもの世界線が交錯し複雑な因果の糸が縦横に絡まり合っているわけなんですよ。



まあ、絶対に、そこまで複雑に考えるような作品ではないだろうことはわかっているんですけど、それでもこうやっていろいろ妄想をたくましくするのが、プオタという生き物の習性なのである、ということでご理解いただきたいものだと!