とんでもないAVを見た話(後篇)

というわけで、昨日の続きです。



※以下、アダルトビデオの話なので18禁です。









レズ・オーガズム [DVD]

レズ・オーガズム [DVD]

※動画ダウンロードはこちら→レズ・オーガズム 春原未来 小口田桂子 - アダルトビデオ動画 - FANZA動画(旧DMM.R18)


春原未来&小口田桂子主演、真咲南朋監督の『レズ・オーガズム』は、達人である春原未来が、自らドMだと語る小口田桂子のことを、あらゆるテクニックを駆使して責めたて、自らもすさまじいエクスタシーを迎える壮絶な展開で、4部構成のうち3部までを終えたのでありました。


卓越した力量を持つ2人の女優が、その肉体を激しくぶつけあった3部のカラミを終えると、4部は「動」から「静」へ、ガラリと雰囲気を変えます。



春原と桂子はお風呂に入り、湯船につかってしっとりと抱き合います。
そして、キスしながら桂子を仰向けのままゆっくりと湯船に沈めてゆき、無音の世界でエロスとタナトスが交錯するような、妖しく美しい場面がここで展開されます。桂子はこの、命の危険すらあるプレイにも従容として身を任せ、「未来さんしか見えない、未来さんの声しか聞こえない」「未来さんが好き」と、心の結びつきができたことを言葉で表すのです。そして今度は春原未来が仰向けのまま湯船に沈み、静かにしっとりとキスをかわしていく2人。


こうして静かにビデオが終わっていけば、激しくも切ない、美しい映像として大団円を迎えることになるのですが、ここで春原未来は突如として豹変するのであります。


やさしく抱き合っていた春原未来は、小口田桂子の胴体に脚を絡めると力強く絞め付け、ガード・ポジションからの強烈なボディシザースで桂子を絞めあげるのです。
突然の痛みに戸惑う桂子の身体をひっくり返し、マウントポジションを取った春原は、桂子の顔面に強烈な張り手を連発。
今日のプレイでは、何度となく飛んでいた平手打ちではありますが、エンディングへ向かうこの流れには明らかにそぐわない技であり、春原の真意が見えない桂子は混乱状態に陥り、「痛いです、ビンタやめてください」と真顔で言い出すのであります。
でも春原未来は「痛いの好きだって言ってたでしょ?」「私は叩かれるのも気持ちいいんだよ、だから叩くの」と、桂子の抗議を意にも介さず、平手打ちを続けるんですよこれが。見ているほうも、いったい何が起こっているのかわからず、ただ画面を見守るばかり。
しまいには、桂子も「やめてください」と張り手を返しはじめるのであります。「どうしてビンタするんですか」という桂子に、春原が返す答えは「好きって言ってるけど、好きなように見えないから」「ぜんぜん気持ちが伝わってこない」という痛烈なもの。思わず松岡修造コピペを思い出しました。

大丈夫!  キミならできる!  ---松岡修造の熱血応援メッセージ (14歳の世渡り術)

大丈夫! キミならできる! ---松岡修造の熱血応援メッセージ (14歳の世渡り術)



そして、張り手を返してきた桂子に、春原未来が「ほらもっと叩きなよ。私のことムカつくでしょ? 先輩だからとか遠慮する必要ないんだよ?」と促すにいたっては、まるで長与千種のような大物レスラーが新弟子に稽古をつけているような、激しさの中の優しさが見えてくるのです。アダルトビデオとプロレスには、肉体を駆使したパフォーマンスという点で共通するものがありますが、ここでこのような展開が見られるとは予想もできませんでした。


ここで春原未来は、小口田桂子に「もっと自分の気持ちに素直になれ」「本当はやりたくないことを、やりたいと言うな」「イヤなことはイヤだとはっきり言え」と迫るのであります。


メンターたる春原未来の導きにより、小口田桂子は「本当は叩いたりするんじゃなく、優しく触れ合うセックスがしたいんです」とその本心を吐露します。じゃあなんで最初はあんなにいじめられたがったのか、という問いには「自分はM女優だから、いじめてもらわないとビデオにならない」と、完全な素に戻って答えるのです。


これね、プロレスでいったら、飯塚高史に「なんでアイアンフィンガーフロムヘルを使うんですか?」と聞いて、「自分は悪役だから、反則をしないと試合にならない」と言わせるようなモンじゃないですか。ミスター高橋だってそこまでミもフタもないことは書きませんでしたよ。
でも、このビデオではそんな衝撃の告白も、不自然には感じられません。アダルトビデオは「裸をさらけ出す」ことにその本質があるメディアであり、中でも春原未来と真咲南朋は、演技を排除した、女優の素顔をさらけ出すことにこだわる演者&演出家だからです。



鈴木涼美の『「AV女優」の社会学』では、アダルトビデオに出演した女性が、業界において「女優」としてのパーソナリティを形成するとともに、それを演じることへのモチベーションを持つようになる、その心理の動きが解説されています。

ひとくちにAV女優といっても、その意識はさまざまなレベルがあります。売春とAV出演の区別がついておらず「セックスすればお金もらえるんでしょ」みたいな人もいますし、現場でスタッフにちやほやされるのが楽しいからやってる、という人もいます。もっと上になると、演じることにプロ意識を持ち、ユーザーを楽しませることに生きがいを感じるような人もいます。



しかし、春原未来はさらにその上のレベルでAVをとらえており、「セックスの介在する場面でしか表に出ない、人間の一面を描き出す」ことを目的のひとつとしている。このビデオを観ると、そう思わずにはおれないのであります。


意志を吐露して憑き物が落ちたようになった小口田桂子は、自分の気持ちに正直になり、春原未来とベッドへ入って、今度はどちらかがどちらかを責めるのではなく、対等に相手の身体を愛撫しあうプレイをはじめます。それまでずっとつけていた首輪を、春原がはずしてやるところが「対等になった」ということを象徴する場面になっています。ここからのプレイは、かつて『挑発』で新山かえでとしたような、お互いに協力しながらエクスタシーに向かっていくものになります。桂子の身体にアザをつけてしまった春原が、自分の腕を桂子に噛ませて「痕をつけて。おうちに帰ってからも思い出せるように。桂子の記憶を残したいの」というあたりは、春原さんならではの特異なテンションと発想です。
桂子がイくのを見た春原が、「最初のときみたいに白目むいたりしないんだね」と言う場面には、永田さんがスパーリングでアームロックを極めたときに「白目むかないんですか?」と言っているようなミもフタもなさがあるんですが、別に最初のカラミがウソでこちらが本物というわけではなく、撮影のテンションに応じたリアクションがそれぞれあるということでしょう。


そして、最後には「女どうしってどうすればフィニッシュになるんだろう」と模索した末に、双頭ディルドでつながったまま、結合部に電マを押し当てるというプレイを選択。よがり声を挙げながら「オナニーしてるのかセックスしてるのかわかんないー!」と春原未来が叫ぶあたりはちょっとユーモアがあります。でもこれは何気に重要なことで、よく「相手のことを考えないセックスはオナニーといっしょ」みたいなことを言う人がいますよね。だけど、逆にいえば「お互いに相手のことを思い合ってするオナニーは、セックスと同じ」ということになります。お互いの気持ちが本当に通じ合っていて、相手の悦びが自分の悦びになるというのであれば、それぞれに自分の快感を追求しあうことで、相手を悦ばせることにもなるわけです。どんな職種でも一流プロのレベルになると、一般の常識だけでは計り知れない領域が出てくる。セックスも例外ではない、ということですね。



かくして、3時間に及んだ大作『レズ・オーガズム』は終了となり、この作品はメーカーにもユーザーにも大きな衝撃を与える問題作として、AVファンの間では高評価を受けることになったのでありました。春原未来はレズの女王としてますますその勇名をとどろかせ、小口田桂子も単なる職業マゾからひと皮むけるのが期待されましたが、熱心に更新していたブログやツイッターが突如閉鎖されたところを見ると、引退した可能性が高いのが残念なところです。AV女優にはさまざまな事情がついてまわり、その寿命は短く、人気があったとしても長く活躍できる人はほんの一握りしかいません。せめて春原未来には、これからもわれわれにその艶姿を見せてくれることを期待したいと思います。