劇画バカ一代

影丸穣也先生が……亡くなられた?


http://mainichi.jp/select/news/20120509k0000m060103000c.html

訃報:影丸穣也さん72歳=「空手バカ一代」などの漫画家

 梶原一騎さん原作「空手バカ一代」の作画などで知られる漫画家の影丸穣也(かげまる・じょうや、本名久保本稔=くぼもと・みのる)さんが4月5日午前9時48分、膵臓がんのため東京都内の自宅で死去していたことが8日、分かった。72歳。大阪市出身。葬儀は近親者で済ませた。喪主は妻ヨシ子(よしこ)さん。公認ファンクラブ主催で後日、しのぶ会を開く。
 「空手−」は、途中で降板した漫画家つのだじろうさんの後を引き継いで、作画を担当した。他の代表作に「ワル」、横溝正史さん原作の金田一耕助シリーズ「八つ墓村」「悪魔が来りて笛を吹く」などがある。(共同)

影丸穣也といえば、梶原一騎とのコンビによる『空手バカ一代』がまず第一に挙げられるところです。つのだじろうの降板を受け、主役も大山倍達から芦原英幸へとシフトして、つのだ時代にあった怪奇ムード(人間凶器の由利達郎とか、いま見るとギャグとしか思えない)を払拭した、汗臭さを感じさせる作画が内容によくマッチしておりました。

空手バカ一代(10) (講談社漫画文庫)

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梶原一騎は浮き沈みの激しい人物でしたが、編集者への暴行で逮捕された後も梶原と影丸の信頼関係は変わらず、最晩年の作品で、梶原の創作の原点ともいえるピストン堀口を題材にした『SLボクサー ピストン堀口物語』の作画も影丸でした。


また、逮捕前の荒れた時期を代表する『カラテ地獄変』でも、あまりに殺伐としてワンパターンな原作に呆れた中城健が降板し、最終章を影丸が作画したことがありました。こちらは、作画家のクレジットは中城健ひとりになっており、完全なゴーストライター扱いだったものです。とはいえ、淫靡さを持った中城の絵と違い、汗臭いながらも健康的な影丸の絵のおかげで、さわやかなラストになっていたのが印象的でした。



梶原一騎のみならず、日本ミステリ史上においても影丸穣也は重要な人物でした。昭和43年に「少年マガジン」誌上で、影丸の作画による『八つ墓村』が連載開始され、これが後の横溝正史ブームの発端となりました。当時すでにセミリタイア状態にあった横溝の作品を敢えて取り上げたのには、桃源社夢野久作小栗虫太郎の作品を復刊したことによる怪奇・伝奇探偵小説ブームがあったのでしょうが、伝奇的とはいいがたい絵柄の影丸が作画に選ばれた理由は今もって謎です。金田一耕助が妙に強そうなのも印象的です。

八つ墓村 (プラチナコミックス)

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昭和54年には『悪魔が来りて笛を吹く』も劇画化していますが、こちらは原作をほぼ無視して、東映映画版を忠実に劇画化するという異色の作品でした。でも金田一耕助西田敏行に似せては描きませんでしたけどね。

悪魔が来りて笛を吹く (講談社漫画文庫)

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悪魔が来りて笛を吹く【DVD】

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真樹日佐夫とのコンビによる『ワル』も印象的で、劇画というものの迫力とロマンを追求し続けた作家でありました。謹んでご冥福をお祈りします。