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映画秘宝EX 映画の必修科目02 激辛韓流映画100 (洋泉社MOOK)

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ぼくは韓流ファンというわけではありませんが、好きな韓国映画は何本かあります。ポン・ジュノ監督の『母なる証明』や、ナ・ホンジン監督の『チェイサー』なんかは「大好き」といっていいほどです。
母なる証明 [Blu-ray]

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チェイサー [DVD]

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韓国映画には、日本映画やハリウッド映画にはない独特の味があり、鈍器を多用する暴力描写やねっとりした家族の描き方など楽しめます。
まぁ独特の味があるのは当たり前で、ハリウッド映画には日本映画や韓国映画にはない味があり、日本映画にはハリウッド映画や韓国映画にはない味があるわけです。韓国映画の水準が日本映画より高いかといえばそうとは言い切れません。暴力描写だって、韓国で鈍器が多用されるように日本映画では刃物、ハリウッド映画では銃が多用されていますから、それぞれにそれぞれの楽しみ方があるのは当然のことです。


いっぽう、日本人には完全に理解しきれない部分もあることはあります。『シュリ』や『JSA』、韓国版『男たちの挽歌』などの娯楽映画から文芸映画まで、広く取り上げられている「民族分断」の悲劇については、理屈では分かっていても心情的に完全に理解できるといったら不遜になるし、また『グエムル〜漢江の怪物』における葬式の場面など、ある程度は韓国の風習について知っていないとわからないところもあります。


でもこれは外国の作品なら当たり前のことで、たとえば『モンティ・パイソン』なんかはイギリス人でないとわからないギャグがてんこ盛りです。


よく「『モンティ・パイソン』は教養がないとわからない高尚なコント」なんて誤解している人がいますが、教養というほどでもなく、イギリス人なら誰でも知っている常識(逆に言えばイギリス人以外の非常識)をネタにしているだけなので、わからないからといって恥じることはありません。


ダウンタウンの『ごっつええ感じ』で、「西日本番長地図」というコントがあったのをご記憶の方もいるでしょう。修学旅行で京都に集まった博多・名古屋・土佐の番長が、土地の名物をネタにしたデタラメな歌を歌いながら喧嘩をするものの、松本人志ふんする「福井番長」だけ土地の名物がわからず、歌えないというコント。これを理解するには、「日本の高校生は修学旅行で京都に行く」「各土地の名物」「福井県はいまいち影が薄い」という知識が必要であり、外国人にはかなりハードルが高いコントです。

おそらく韓国人にもそうとう難しいでしょう。


外国の娯楽作品を理解するためには、ある程度その国についての知識が必要であり、外国人には完全に理解するのは難しい面もある。これは当たり前のことです。


この前提を踏まえて、この発言について検証してみましょう。


韓国の血が流れている人間でなければ、韓流の魅力はわからない。これもある意味で正しいのかもしれません。「ルーツ」といってもそんなに古いものではないでしょう。文化の理解度に影響を及ぼすとなると、日常で直に接していた親族が韓国・朝鮮の人だったという程度に限られます。この発言をした人は、おそらく韓国に近しいルーツを持ち、民族の誇りを保っているに違いありません。



……そんなわけあるか!



ぼくも別に韓流ドラマとか見ませんけどね(だってメロドラマとか恋愛ドラマばっかなんだもん)、どういうレイシズムだよこいつ。


この手のネトウヨは、韓国のものはすべて日本より劣っていて、それを好きになる人間も劣等民族の血が流れているに違いない、と本気で信じているんですかね。おそらく一種のポジショントークで言ってるだけなんでしょうけど、それにしたって頭が悪すぎるなぁ。仮に、在日韓国人が「日本人には韓流の本当の面白さはわからない」と発言していたら、この手のネトウヨは「韓国人による日本人差別!」と叩きに回ると思いますけどね。内容は同じなのに。


ちなみに、ノワールの大家である馳星周先生も、韓流ドラマの『イ・サン』にはまっていたそうです。

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というのも、日本の歴史ドラマはどれも結末がわかりますが、韓国の歴史はわからないので「この人は王様になれるの?」など先が読めず、面白いからだそうです。


その国のことがわからないと、より楽しめるドラマってのもあるんですね。でもこの手のネトウヨにいわせたら、「馳星周は両親が共産党員で、本名はレーニンにちなんで名づけられたぐらいだから、反日にちがいない!」とかなるのかもしれませんけどね。

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