誰よりも君を愛す
- 作者: 逢坂剛
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/01
- メディア: 単行本
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今回のテーマは「視点・表現・言葉のあいまいさについて」だったのですが、日本語の場合は主語と述語がつながっていなくても文章が成立するという性質があるため、あいまいな表現が生まれやすくなります。
逢坂先生がまず例にあげられたのが、松尾和子&和田弘とマヒナスターズによる1959年のヒット曲”誰よりも君を愛す”でした。
- アーティスト: 和田弘とマヒナスターズ,田代美代子,松尾和子,吉永小百合,三沢あけみ,浜口庫之助,宮川哲夫,佐伯孝夫,岩谷時子,井田誠一,喜志邦三
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2005/09/22
- メディア: CD
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- A:男はたくさんいるが、その中の誰よりも、自分こそがいちばん君を愛している
という意味なのか、
- B:女はたくさんいるが、その中の誰よりも君を、自分は愛している
という意味なのか、どちらなのかは歌詞を読んでもわからないように書かれています。でも、意味はあいまいでも歌はヒットして第2回のレコード大賞を受賞し、映画にもなりました(昔は、映画の主題歌として曲がヒットするのとは逆に、ヒットした歌謡曲をモチーフにして映画化されることがよくあった)。
これは歌だから意味があいまいでも許されますが、小説で同じことをやったら話が成立しなくなります。主語と述語はしっかり繋げないといけませんね。
また、たとえば、やる夫とやらない夫が『けいおん!!』について会話している場面を、やる夫の視点で描いたとします。
やらない夫には『けいおん!!』の魅力がわからないようだった。力説するやる夫のことを、軽蔑するような目で眺めていた。
やる夫は梓のことを思うと、心の底からぺろぺろしたくなる。いつだってそうだ。それだけに、やらない夫の冷徹な表情がむしょうに腹立たしかった。
「どうしてやらない夫には、あずにゃんの魅力がわからないんだお……!」
「てめーみてーな萌え豚じゃねえからだよクソが」
やる夫は、この男には愛というものが理解できないのだと思った。苦虫を噛み潰したようなやらない夫の顔を、今度は逆に、やる夫が軽蔑するような目で眺めてやった。
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しかし、「ような」という外部視点による評価が加わっているため、後のほうはおかしな表現になります。やる夫の視点で書くならば、ここは「軽蔑しながら眺めた」と書かなければ、視点が乱れることになります。
英語圏の小説では、主語が変わるたびに視点が変わり、作者の視点も入ることが少なくありません。そのため、翻訳調に普段から慣れ親しんでいる人は視点の乱れに無頓着になりがちですが、日本語の小説では視点が乱れていると稚拙な印象を与えてしまいます。注意しなければならない点です。
とはいえ、視点が乱れていれば即つまらないのかといえば、そうでもありません。
時代小説のジャンルでは、視点が乱れていても天衣無縫なパワーで押し切ってしまう作家が何人もいました。逢坂先生は、五味康祐や柴田錬三郎、隆慶一郎をその例に挙げています。
- 作者: 五味康祐
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/04/01
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- 作者: 柴田錬三郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/07/20
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- 作者: 隆慶一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1990/09/27
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時代小説にせよハードボイルドにせよ、主人公の格好よさを演出するのはその行動ばかりでなく、文体の簡潔さに主眼があります。
昨年ごろから大ベストセラーになった、ある「小説」と称する本がありましたが、その中身をぱらぱらとめくってみるだけで「そして」「すると」「それから」「しかし」「だから」などの接続詞がやたらと目につきます。これは文章を冗長にするだけでなく、小説らしさを失わせ「説明」にしてしまうので、絶対に避けなければならないところです。
- 作者: ピーター・F・ドラッカー,上田惇生
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2001/12/14
- メディア: 単行本
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今回の講座では、受講生から講師への質問コーナーも設けられました。ぼくもこの機会に、「逢坂先生は、発端から始まって演繹的に創作される場合と、結末へ向って帰納的に発想される場合とどちらが多いですか」と質問してみました。
逢坂先生はこれに答えて「ミステリー的な要素の強い作品の場合は、あるていど結末を決めてからでないと書けない。しかし、キャリアを積んでからは、あるシチュエーションをひとつ思いついて、そこから発展させて書けるようにもなった」とおっしゃっていました。
ぼくの場合は、まずオチができてからでないとブログも書けないので、まだまだ筆力が足りないということですね。
次回の講座
- 作者: 馳星周,荒木経惟
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2001/10/24
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- 会場:仙台文学館 講習室
- 受講料:一般2000円、学生1000円、高校生以下無料
※東日本大震災で被災され、罹災証明書をお持ちの方も無料といたします。
※ただし、高速道路利用のための「被災証明書」は対象外となります。ご了承ください。
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