義務・イット・アウェイ

テルチェーン、東横インの従業員が労働組合を作ったとか。


http://www.labornetjp.org/news/2010/0607toyoko

長時間残業と人権侵害に抗し、東横インの女性たちが労組結成

200のビジネスホテルを全国展開する東横インで、フロントやルームメイク担当の女性正社員らが「東横イン労組」を結成した。25時間勤務なのに、仮眠・休息も取れず、サービス残業は膨大で、深夜は1−2人で全館を管理させられる。半畳の閉所に8日間拘束される「内観研修」も強制される。大阪地裁でも「過労死的労働・人権侵害研修」と女性達に訴えられているが、会社は、未払賃金請求は「教条主義的な左翼理論」、内観研修は「唯物論的理解では把握できない精神心理技法」と反論している。

すごいなぁ。未払い賃金を請求されて「教条主義的な左翼理論だ!」って。法廷でそんなこと本当に言ったの? そんなの「いや、やはり精神的なものを鍛え、国体を復活させる方が先ですよね」って言ってるのと大差ないでしょ。反論でもなんでもない。この会社には顧問弁護士とかいないんですかね。


とはいえ、このニュースは左翼系サイトの記事なので、会社がこの文字通りに発言しているかどうかはちょっと引いて考えるほうがいいかもしれません。「教条主義的左翼理論」とか「唯物論的理解」とか呪文めいていて、左翼用語っぽい響きですし。黒田寛一的センスだよこれ。「日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派」ほどじゃないにしても。

反戦闘争論の基本構造 (組織現実論の開拓)

反戦闘争論の基本構造 (組織現実論の開拓)


ほかの媒体では、東横インの広報は「労働法を守ってきちんと対応したい」と話したことになっているので、今後の推移を見守りたいところです。


それにしても、このテの労働環境に関する話になると、必ず「権利を主張するなら義務を果たせ」みたいな理屈を持ち出してくる人が、どうやら世間では多数派を占めているらしく、ぼくなんかは絶望的な気分になることがしばしばです。


たとえばこちら。


稼げる人が誰でも持っている「経営者の視点」 : J-CAST会社ウォッチ

いま、若い人たちの間で、「仕事は会社に言われたことだけやる」「決まった時間だけ働けば、決まった給料をもらえて当然」という人が増えているそうです。しかし、

「経営者の視点なんて持つのは、“社畜”か“奴隷”だ」

などと言って、いかに楽をしつつ給与や休暇の権利を主張するか、とばかり考えていても、残念ながら結果はまったく逆になります。

この辺は、おビジネス屋さんがあきらかに「ニートの海外就職日記」さんを揶揄している文章なんでしょうけど、案の定、海外ニートさんから反論されています。


http://kusoshigoto.blog121.fc2.com/blog-entry-356.html

何を言ってるんだかw。「決まった時間だけ働けば、決まった給料をもらえて当然」だろ? 始業時間から終業時間(定時)までしっかり働いて、決められた給料を得る。そんなの当たり前も当たり前の社会常識、って言うか基本線だろ? 決まった時間以上働かないと、決まった給料ももらえないなんて理不尽の極みだぞ。何のために労働時間や給料が決められてるんだよw? まるで、決められた給料をもらうためには、定時まで働くだけじゃ不十分、サビ残や休日返上でタダ働きするのが当たり前とでも言いたげなようだなww。


あと、きっと著者は無意識に書いてるんだろうけど、クソ経営者や社畜にとっては真面目に働いていても定時でサクッと帰ったり、有給をしっかり消化するヤツは「楽をしている」ことになってしまうんだよな。これって恐ろしい思考だよ、マジで。。。皆が皆キツい思いをしてないと気が済まないってのはもう一種の病気だぞw。

こっちの方が当たり前のことを言ってると思いますね。ただ、それは「時間までとにかく仕事してればいいや」じゃダメで「時間まではしっかり仕事する」ことが前提になっているわけですけど。まぁそれは仕事だから当然のことですけどね。


そもそも、義務と権利はちゃんと両立するものじゃないといけません。「仕事をする」義務に対して「給料をもらう」権利が発生するのならそれは正当だと思いますが、「休みを取る」権利を得るための義務が「休まないで働く」だったら、これは矛盾も甚だしいですね。そんなの「私は人種差別と黒人が大嫌いだ」みたいなもんですね。『キャッチ22』的な状況というか。

キャッチ22 [DVD]

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(キャッチ22:精神病者は軍医に申告すれば除隊が認められる。ただし、自分の病気を認識できる者は精神病者とは認められない。という空軍パイロットの規定)


どうも、労働者の義務は「権利を行使しないこと」だと思っている人が世間には多いような気がしますが、経営者には「労働者の権利を守る」義務があることも忘れないでいて欲しいものです。