執念の刑事



本屋に行ったら、文春文庫で『退職刑事』が出ているのを見かけた。


都築道夫の『退職刑事』シリーズは、引退した元刑事が、現職刑事の息子から聞いた話だけで事件の真相を推理する、安楽椅子探偵ものの連作短編である。江戸っ子の作者らしい洒脱さと、本格ミステリのしっかりした骨子を併せ持った作品だ。


1973年から1995年まで書き続けられ、もとは徳間書店から文庫本として出ていたが、徳間版は『退職刑事1』『2』『3』と続いたあと、第四弾『退職刑事健在なり』をはさんでなぜかその次が『4』『5』という変則的なノンブルがついていたものであった。


その後、創元推理文庫に入ったときはシンプルに『1』〜『6』と題されていた。


この版がすっかり馴染んでいたので、文春から出るというのがちょっと意外だった。文春文庫では、都築道夫は「もどき」シリーズぐらいしか出していなかったはずだし。


と思ったら、ぜんぜん関係ない別人の作品であった。

退職刑事 (文春文庫)

退職刑事 (文春文庫)

こちらはアームチェア・ディテクティヴでもなんでもなく、元悪徳刑事や執念の元刑事を描いたハードなものである。イメージがまったく違うのだが、タイトルを決めるときにためらいはなかったのだろうか。