プロレス左右あれこれ
深町秋生先生が小説の書き方について書かれたエントリが、ホッテントリに入っています。
小説のルール - 深町秋生の序二段日記
深町先生と長岡弘樹先生が講義をされたときの(ちなみに、このときはオレの書いたテキストを教材に使ってもらったのであった)「”○○感”という言葉は使わない」話とか、人物の内面をアクションや風景によって表現する技術について、例を挙げてわかりやすく解説されています。
で、ルール無用に思える小説の世界にもルールがあるということを、プロレスの世界では必ず左脇でヘッドロックをかけるという暗黙のルールにたとえているあたりもわかりやすいですね。「メキシコでは逆」とわざわざ追記せずにはおれないあたりも、プロレスファンの重い業を感じさせて味わい深いといいますか。
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プロレスのルールというと、「両肩をマットにつけてカウント3で勝ち」「拳によるパンチや噛み付き、つま先での蹴りは反則」「指の関節を攻める場合は三本以上をとること。二本以下では反則」など表のルールを思い浮かべる人が多いかと思いますが、実際のリング上では、もっと守らなければいけないルールというか作法があるんですね。
たとえば、ロープからロープに走るときは必ず三歩半(これは身長168cmのグラン浜田でも209cmのジャイアント馬場でも同じである)であるとか、ハンマースルー(相手の腕を取ってロープに振る)やアイリッシュ・ホイップ(一本背負い)では必ず左腕をとることとか、よく見るとプロレスはほとんど相手の左半身を攻めるのがセオリーだということがわかります。
このブログを読んでいる人の中に、どれくらい柔道経験者がいるかわかりませんが、とりあえず柔道を思い浮かべてください。
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これに対し、プロレスはこう組みます。
これは、今年の三月に催されたリアルジャパンプロレス後楽園ホール大会における、長州力と初代タイガーマスクのロックアップ。お互いに左手を相手の首に、右手を相手の肘にあてて組み合っているのがわかると思います。
以前、バックドロップと柔道の裏投げは左右が逆になるというエントリを書いたことがありますが、そもそもプロレスと柔道は左右が逆だったんですね。
プロレスの起源には諸説ありますが、サブミッションを駆使するランカシャー・スタイルとともにその主用な源流のひとつと考えられているのが、アイルランド式の、着衣で闘うカラー・アンド・エルボー・スタイルです。カラー・アンド・エルボー、すなわち襟と肘。互いにジャケットの袖と襟を掴んだ状態で試合を開始するのがそのスタイルで、現在のロックアップはその名残りだと考えられます。
ものの本によれば、アイルランドのカラー・アンド・エルボーがアメリカでプロレス化したのが19世紀前半のことといいますから、講道館柔道が成立したよりも早い時期に、この左右の違いが生まれていたんですねぇ。
ちなみに、ヘッドロックやアームホイップなどの基本ムーブは左右が決まっていますが、その他の技には左右が確定していないものも少なくないようです。
左右のわかりやすい技として、4の字固めを例に挙げてみましょう。
これは、昭和38年にザ・デストロイヤーが力道山と闘ったときの有名な写真です。「4」が左右逆になっているのがよくわかりますね。
これに対し、昭和48年にアントニオ猪木がジョニー・パワーズと闘ったときはこちら。
この動画の最後の方で、パワーズが猪木に4の字固め(パワーズは、通常の2倍は効くとして「8の字固め」と呼んでいた)をかけていますが、これは「4」の形が正しくできています。
また、4の字固めと入り方がほとんど共通しているスピニング・トー・ホールドの場合は、オリジナルの使い手であるザ・ファンクスは相手の右足、ファンク道場門下生であるジャンボ鶴田やテッド・デビアスは左足を攻めるという違いがありました。
ドリー自身は、ファンにプロレスの基本技を教える際にも、スピニング・トー・ホールドだけは「父と私のオリジナル」だとして軽々しく教えてはくれなかったそうですが、弟子たちもやっぱりいくらかは遠慮があったんでしょうかね。
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