味な旅 舌の旅

最近読んでいる本。

宇能鴻一郎といえば、「あたし、感じちゃったんです」というモノローグによる独特の文体の官能小説が有名ですが、この本は珍しく普通の文章で書かれた紀行文で、北海道から奄美まで日本を縦断しながら、各地の珍味酒肴を味わっています。


北海道ではイカそうめんや小女子の茹でたのをドンブリでわさわさ喰ったり、仙台では牡蠣を百個以上喰ったうえに酒もしたたか呑んで表通りで踊り狂ったり、会津では新聞記者あがりの郷土料理屋の主人から「ここは、日本一に尊属殺人の多いところでね」と聞かされながら里芋の串焼きを喰ったり、といった調子で、軽妙なユーモアと絶妙のオッサン臭さがなんとも言えません。


といっても、この本は昭和43年に刊行されたもので、作者は当時32歳ぐらいというから今のぼくと同じぐらいなんですね。


この40年の間に、30代の男というもののあり方も大きく変わってきた、ということでしょう。


変わったのは男のあり方だけではなく、観光地の料理も様変わりしています。


最近はどこの地方でも、たいがいブランド牛を飼育しており、観光地でもそれを前面に出していることが多いですが、昭和40年代当時はほとんど肉料理が出ず、どこでも魚料理が中心になっているのが、現在とはだいぶ違いますね。


温泉も、当時は混浴のところが多く、どこでも決まって女性の方が堂々としていて男は神妙にしている、という感じで、40年前にも「最近の女性は強くなった」といわれていたことがよくわかります。今はもっと進んだか、というとそんなことはなくて、混浴の場合は水着の着用がふつうになってますけどね。


また、琵琶湖畔の雄琴温泉に行ったときは、「雄琴温泉では、鴨を獲って食べさせるのを呼び物にしている」「ネオンもほとんど見あたらず、温泉地独特の浮き立つような雰囲気には欠ける」「野郎の気軽なひとり旅だと、退屈をもてあます怖れもある」などと地味な描写ばかりで、1968年ごろの雄琴には、まだソープランド街がなかったということがよくわかりますね。


いや、ぼくはそういうのよう知らんですけど。


こういうオッサン臭い話題ばかりかと思うと、知多半島に行ったときは名鉄パノラマカーを絶賛しており、意外な乗り鉄っぷりも飛び出します。


(ちなみにこういう電車である)


この電車のデザインについては、「スピード感にあふれながらもゴテゴテしている、というのは、子供がいちばん喜ぶものなのである」とその人気の源を分析し、

古典的なゴジラにしろ、近代的なメカニコングにしろ、すべて怪獣に人気があるのはその巨大な全身がイボや、トゲで、デコボコにおおわれているもので、だからこそ彼らは親近感と文字通り手がかりのある感じを起こさせる。

と続けています。


この不意打ちにはやられました。メカニコングなんて今どき誰も知らないよ!

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