ボディガード牙

では本日は、梶原一騎の大東カラテ三部作第一部、「ボディガード牙」をお届けします。

この作品は、1972年から74年にかけ、「週刊サンケイ」に連載された作品。


主人公は、徹心会門下の空手の達人、牙直人。

師匠の大東徹源が設立した神の手ゴッド・ハンド 機関」所属のプロ・ボディガードとして、一件につき2000万円のギャラで一切の武器を用いずに依頼者を護衛するという凄腕の男です。


その彼が、さまざまな敵に狙われている依頼者の求めに応じて、襲い掛かる敵を倒し、背後に隠された謎を解いていくという、探偵アクション的なテイストを持った作品でした。


数週で一話の短編をいくつも続けるというエピソード型の形式もあって、プログラムピクチュア的なザックリ感を出しており、以降のシリーズでは強烈になるエロ・サディズム描写もこの時点では控えめで、オヤジ系劇画として過不足のない無難な内容になっています。



ただし、当時の梶原は小池一夫をライバルとして強烈に意識し始めており、彼への対抗意識のためか、政治的なネタをポツポツと投入します。


たとえば「東京スパイ伏魔殿」というエピソードでは、北朝鮮による日本人拉致事件金大中事件、及びよど号ハイジャック事件をモチーフとしており、これらを短編の中に強引に入れ込んだためにストーリーはしっちゃかめっちゃかになっています。


基本的に、梶原の演出法は複雑な話を語るのには不向きなんですね。



そして、キャリア後半の梶原一騎がことのほか好んだモチーフが、この作品でついに登場します。


それはナチス

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「愛しの心臓ハート に銃弾を」というエピソードでは、マリリン・モンローの再来とうたわれる美人ハリウッド女優ロロ・ベロニカが、正体不明の敵から狙撃やサウナ閉じ込めなど執拗な攻撃を受けますが、どれも致命傷を与えないように計算されています。


それらは、実は彼女の父である、ナチス残党最後の生き残りでユダヤ人虐殺の実行者、カール・フォン・シュミット大佐をあぶりだすためにユダヤ系財閥が行ったものでした。

このベタなネーミングはいかにも梶原一騎ですね。



そして、その後シリーズが進むにしたがってエロ・バイオレンス描写は過激さを増していき、その時期の梶原作品を「狂気の時代」と称するほどの域に達するのですが、詳細は明日の「カラテ地獄変牙」篇で。