日本テロリスト列伝・右翼篇
テロリズムとは、平たく言えば思想的意図による殺人のことです。
要人暗殺、建造物爆破、交通機関攻撃などその手口は多岐にわたり、世界中の人々に恐怖と衝撃を与え続けています。
とくに、五年前にニューヨークで発生した911テロは世界情勢を一変させ、世界は現在もその影響から脱しておりません。
「テロとの戦い」は今も続いています。
わが国でもテロは古くから発生しており、忠臣蔵で有名な赤穂浪士の吉良邸襲撃もテロの一種と考えられています。
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また、幕末の京都では勤皇の志士と新撰組がテロの応酬を繰り広げていました。
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近代においても、暴力と破壊によってその思想を世に知らしめんとするテロリストたちが何人も出現し、日本列島を恐怖のどん底に叩き落しました。
では、戦後の世相に大きな衝撃を与えたテロリストたちを紹介してみましょう。
山口二矢
1960年10月12日、日比谷公会堂で演説していた浅沼稲次郎・日本社会党(現・社民党)委員長が、壇上に乱入してきた学生服姿の少年に、短刀で刺殺されるという事件が発生しました。
その場で現行犯逮捕された犯人が、当時17歳の山口二矢。
厳しい父と優秀な兄に抑圧されて育った彼は、16歳で大日本愛国党に入り、右翼思想にのめり込んでいきました。
そして左派活動家への攻撃を決意し、日教組委員長や共産党議長など数人の候補を検討したのち浅沼をターゲットに決定、大日本愛国党を脱党してこの凶行に及びます。
この犯行の瞬間はテレビで放送され、当時の世間に大きな衝撃を与えます。
また、その瞬間を撮影した毎日新聞のカメラマンは日本人初のピューリッツァー賞を受賞、この事件を題材にした沢木耕太郎の「テロルの決算」は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、ジャーリストにとっては魅力的な題材となったものでした。
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東京少年鑑別所に収監された山口は、11月2日夜、歯磨き粉を溶いて「七生報国 天皇陛下万歳」の文字を壁に書き、自殺を遂げます。
その果敢な攻撃と最期の潔さから、現在も右翼の間で山口二矢は神格化されています。
嶋中事件
1961年2月1日、中央公論社の嶋中鵬二社長宅に、大日本愛国党に所属する17歳の少年が押しかけます。
社長に面会を求めますが不在だったため、持っていた登山ナイフで家政婦の女性を殺害し、夫人にも重傷を負わせました。
この凶行は、前年に「中央公論」に掲載された深沢七郎の小説「風流夢譚」に対する抗議として行われたもの。
革命により皇族が次々に処刑されるという夢をつづったその内容の過激さに、各右翼団体や宮内庁の抗議が殺到していて、中央公論社は謝罪広告の掲載や編集部の人員入れ替えで事態の収拾を図りますが、最悪の結果を避けることはできませんでした。
犯人には懲役15年の判決。
大日本愛国党の赤尾敏総裁も、事件の黒幕として殺人教唆容疑で逮捕されますが証拠不十分で釈放されます。
中央公論社は、事件後もさらにお詫びを掲載するなどして事態の収集を進めようとしますが、被害者が謝罪するというその態度に、言論機関が暴力に屈するのかという批判もありました。
原因を作った深沢七郎は、その後数年にわたって隠遁・放浪生活を余儀なくされ、1965年には埼玉県にラブミー農場を開き、以後はそこに住みました。
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赤報隊
1987年1月24日、朝日新聞東京本社に銃弾が撃ち込まれ、「日本民族独立義勇軍 別動 赤報隊」から「われわれは日本国内外にうごめく反日分子を処刑するために結成された実行部隊である。 一月二十四日の朝日新聞社への行動はその第一歩である。これまで反日世論を育成してきたマスコミには厳罰を加えなければならない」などとする犯行声明が出されました。
同年5月3日には、朝日新聞阪神支局が目出し帽を被った男に襲撃され、記者一名が散弾銃で射殺、一名が重傷を負うという事件が発生。
赤報隊からは「われわれは本気である。すべての朝日社員に死刑を言い渡す」などの犯行声明が出されました。
その後も、名古屋本社寮や静岡支局が銃撃や爆弾での攻撃を受け、また政治家や韓国人団体にも赤報隊を名乗る脅迫や放火が行われ、犯行声明が出されるという事態が続発。
警察庁は一連の事件を広域重要116号事件に指定、全国規模での捜査を行いましたが結局すべてが未解決のまま時効を迎えました。
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この事件に関しては、鈴木邦男や野村秋介といった右翼系の人物から「右翼の仕業ではない」とする見解が出ており、未解決事件の常としてさまざまな説があります。
赤報隊の秘密―朝日新聞連続襲撃事件の真相 (鈴木邦男コレクション)
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言論に対するテロの典型として、また未解決に終わった不気味さからも、現在でもその衝撃は弱まることがありません。
しかし、保守派の人物には赤報隊を評価する向きも少なくなく、現在のネット右翼からも、朝日新聞批判とともに彼らを賞賛する声が上がることがよくあります。
「反日」という言葉が、左翼批判の文脈で使われるようになったのはこの事件がきっかけだとも言われており、旧来の右翼・新右翼にあてはまらない活動家の登場を告げる事件だったともいえるでしょう。
では次回、「左翼篇」に続きます。