日記タイトルを元に戻します

邪魅の雫」を読了。

邪魅の雫 (講談社ノベルス)

邪魅の雫 (講談社ノベルス)

以下、ネタバレしております。












…ダメだこりゃ。


これまでの京極堂シリーズでは、難解な謎の提示がまずあり、それに関連して京極堂の薀蓄語りがあり、榎木津礼二郎が引っ掻き回し、関口くんが「うう」と言い、やがて京極堂が憑物落としをして謎を解明する、という面白さがありました。


しかし、今回は事件に関する情報が断片的なものばかりで、しかも誰とも知れない人たちの主観描写をいったりきたりしているばかりなので、謎の難解さ以前に何が起こっているのか把握できないという感じです。

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫)

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫)

前々作「塗仏の宴」でも、複数の人間の視点が、食い違いながらやがてひとつに収斂していくという、いわば「グランドホテル」形式が試みられていましたが、こちらではそれぞれがひとつの中短編として独立していましたので、理解はしやすかったです。

しかし「邪魅の雫」では、似たようなセカイ系っぽい人物たちが似たような自分語りを繰り返し、似たような人物が出てくる似たような事件の断片がちょこちょこ提示されるばかりなので、そもそも何が謎なのかわかりません。



不可解なもの、不思議なものがなにもなく、ただ不明なことがあるばかりなんですね。



「この世には不思議なものなどなにもないのだよ」京極堂は言いますが、本当にないのではちょっと。



おまけに、犯人(という言い方が正しいかどうかはさておいて)が、それまで全然姿を見せなかったのが、いきなりポッと現れて「わたしが首謀者です」って言われたって納得いくか。


しかも、旧日本軍の開発した化学兵器などという魅力的なジャーゴンを導入しておきながら、最終的には榎木津の縁談に嫉妬した元カノの陰謀、に落ち着くというのはどういうことよ。


順番が逆でしょ。元カノの妨害工作の背後に旧軍の亡霊が蠢く、ってんならわかるけど、そんなにスケールしゅしゅしゅーってしぼませてどうすんのよ。


大国どうしの冷戦を背景に、独裁国家のクーデターを描いていたのが、いつのまにかおねーちゃんのキャットファイトに収斂していった「新カラテ地獄変をちょっと思い出してしまいました。



すみません京極さん。


今回は榎木津の出番が少なかったので、その分「百鬼徒然袋」をもう一冊ぐらい書いて、われわれをもう少しスカッとさせてから、次の「鵺の碑」に着手してもらえませんかね。