三本指の喪男

※本エントリは、横溝正史先生の作品の核心部分に触れております。
ネタバレ回避したい方はご注意。




当ブログでは、ちょくちょく「非モテ」「喪男」という話題を取り上げておりますが、この分野ではミソジニー派の大物として知られる「喪男道」というblogがあります。

そこで、こんなエントリがありました。
喪男道 非モテ、鯛男達へのプレゼント
要は、「SEXさせない女はとっとと捨てろ」と言いたいらしいのですが、そのエントリに管理人がつけたコメントに、こんなのがありました。

>『中古でも配偶者としてマトモな女』と
>美点を認め合ってツガイになることができた、として
>将来的に「不幸直結」と
>「それなりに家庭の幸福を得る」のどちらを向いてます?

人それぞれじゃないでしょうか。
そうとしか言い様がありません。
ですが、非モテ喪男の多数的意見として考えるとこうなるかと。


妻は良く頑張ってくれてるし、子供も順調に育っている。
家庭は明るく、これといって不満はないはず・・・


が・・・なんだ、この言いようの無いどす黒い感情は・・・


私が知っている妻よりも更に若く美しかった頃の
妻の体を好きなように嬲った男が居たと考えると・・・


どこの馬の骨とも分からない男に膣を肉棒で抉られ、
子宮への突き上げを感じ、そのたびに涎を流しながら
喘ぎ声を上げ幾度と無く絶頂に達していたであろう我が妻。


そして無防備な体内に大量の精液を流し込まれて、
それを歓喜して受け入れていたであろう事。


私は、私は気が狂いそうになり、全てを壊してしまいたくなるのだ。
だが、良き妻良き母として振舞う彼女を打ち捨てるほどの豪気は私には無い。


何か満たされぬ、何か薄暗く、何かやりきれなく・・・
そんな「得たいの知れぬ何か」に私は心を覆われながら
それでも妻と我が子の笑顔に促されてしぶしぶ職場へと出かける。


私はこの先何十年と妻と過ごしていく事になるだろう。
その何十年間私はこの心の闇と戦い続けねばならないのだろう・・・。



私は果たしてこの「闇」を打ち破る事が出来るのだろうか?

これはすごいなぁ。ここまでキモい妄想を垂れ流しにしながら「自分はモラリスト」と言ってるのは何かのギャグなんだろうと思うのですが、このコメントから即座に連想した小説がありました。


横溝正史先生の「本陣殺人事件」です。

本陣殺人事件 日本推理作家協会賞受賞作全集 (1)

本陣殺人事件 日本推理作家協会賞受賞作全集 (1)



この小説は、戦前には洋風な読み物だった本格探偵小説に、純和風の舞台装置や世界観を持ち込んだという点で画期的な作品でした。


あらすじをいいますと。

昭和12年11月。

岡山県の山間部で、マスクで顔を隠し、手袋をはめた不審な男が旧本陣・一柳家の所在を訊ねていた。
近所の住人に水を貰って飲むその姿は、顔に大きな傷があり、右手の薬指と小指が半ばから欠損していた。


その日、一柳家では当主の賢蔵と久保克子の結婚式が執り行われていた。
柳家から賢蔵の母の糸子、弟の三郎と妹の鈴子、従兄の良介と、久保家からは、克子の唯一の身内である伯父の銀造が出席していた。


鈴子が琴の演奏を披露するなど式はとどこおりなく終え、一同が眠りについた深夜。

屋敷にけたたましい琴の音が鳴り響き、眼を覚ました銀造らが夫婦の寝室である離れへ行ってみると、新郎新婦が血にまみれて死んでいた。

屏風には不気味な三本指の血の手形が押され、庭には血塗られた日本刀が突っ立っていた。
降り積もった雪には足跡一つなく、離れは完全な密室になっていた…!



賢蔵の日記には、「生涯の仇敵」なる人物が記されていた。
これが三本指の男なのか?


岡山県警の磯川警部が指揮をとるが、捜査は難航。
銀造は、自身が出資して開業させた私立探偵、金田一耕助を東京から呼び寄せる…

これが、金田一耕助初登場の作品となります。



金田一の捜査により事件はまもなく解決。



その真相は、賢蔵が克子を殺害して自殺し、他殺に見せかけた偽装殺人でした。


動機は、克子にかつて愛人があり、処女でなかったから、というもの。

というのも、賢蔵は極度の潔癖症であり、他人が触れたものはアルコールで消毒せずにはいられないほど。
なので、このような汚れた身体をもってヌケヌケと自分の妻になろうとした克子に激しい憎しみを抱き、殺害したものの、犯罪は必ず露見するという信念を持っていたため、自殺してそれも他殺に見せかけ、家名に傷が付くのを最大限避けようとした、というものでした。



喪男道」の管理人は、「覚悟」というHNを名乗っておられます。

覚悟のススメ

覚悟のススメ

山口貴由先生の「覚悟のススメ」の主人公、葉隠覚悟が、
「俺の人生に愛はいらない 心をつないだ鎧があるから」
と詠うのにならったのだと思いますが、彼はクラスメイトの堀江罪子への愛を秘めて戦うので、女性全般を憎悪することで「護身」し、恋愛を完全に放棄するという管理人氏のスタンスにはそぐわないのではないか、と。

むしろ、人類全般を憎悪して戦術鬼を使役し、人類絶滅を図る散のスタンスに近いかも。




「覚悟」氏は、純潔を尊び、家名を守るという保守的な価値観への傾倒をあらわにされています。


その彼からしてみれば、「本陣殺人事件」の犯人・一柳賢蔵の行動は、因習と妄想にとらわれた男の狂気の犯行ではなく、男を騙して名家に入り込もうとした『肉便器』への正義の鉄槌ということになるんではないでしょうか。


「覚悟」氏は、HNを「一柳賢蔵」に変えた方がいいんではないかと思います。

映画では田村高廣、テレビでは佐藤慶が演じているのだから、役柄の重厚さからいっても文句なしでしょう。

本陣殺人事件 [DVD]

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あ、ちなみに、三本指の男は、ただ単に交通事故で傷を負っただけの通りすがりの人物でした。

外見だけで疑われたらたまったもんじゃねーな。
顔に大きな傷があって、指が半分ちぎれてたら、そりゃ隠しててもおかしくないよねぇ。