はてしない物語

BSの石坂金田一特集も、今日の「病院坂の首縊りの家」で終了となります。

病院坂の首縊りの家 [DVD]

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これ、原作では昭和28年から48年までにわたる、二つの事件を扱うとても長ーい話で、金田一耕助はこの事件を最後にアメリカへ渡って、行方をくらますんですよね。さすがにそんな長い話を映画でやるのは無理なので、映画版では事件は一つにまとまり、某作品から再収録した大トリックや、おっさんの長ーいモノローグは丸ごとカットされていました。



横溝正史という作家のキャリアは、実はかなり特異なものです。

戦後の昭和20年代に、本格ものの傑作をいくつも発表して確固たる地位を築きますが、昭和30年代に入ると、東京の夜の街を舞台にした通俗的な作品が多くなり、松本清張に代表される社会派推理小説の台頭もあって仕事は減っていき、昭和40年に森下雨村江戸川乱歩が相次いで亡くなって以降はほとんど新作を発表せず、セミリタイア状態になっていました。


しかし、昭和43年に「少年マガジン」で「八つ墓村」が影丸穣也の作画で劇画化されたのをきっかけに再評価が進み、角川春樹によって過去の名作が次々に文庫化され、空前のブームが起こります。


ブームに気を良くした横溝先生は、かつて未完にしていた長編「仮面舞踏会」を書き下ろして完結させ、華麗なる復活を遂げました。


その後、古い中篇を長編に書き直した「迷路荘の惨劇」を刊行し、「病院坂の首縊りの家」「悪霊島」を「野性時代」に連載、晩年に迎えた黄金時代を締めくくります。

迷路荘の惨劇 金田一耕助ファイル 8 (角川文庫)

迷路荘の惨劇 金田一耕助ファイル 8 (角川文庫)

悪霊島 (あすかコミックスDX―名探偵・金田一耕助シリーズ)

悪霊島 (あすかコミックスDX―名探偵・金田一耕助シリーズ)



これら、「仮面舞踏会」以降の晩年の作品には、共通する傾向があります。




ひたすら長い。



さして重要でない人物のセリフが長々と続いたり、錯綜した人間関係を長々と説明し続けたり、明らかに取捨選択の能力が衰えていたものと思われます。


とくに「病院坂の首縊りの家」の冒頭はすごく、舞台になる法眼家と五十嵐家の三代にわたる複雑な縁組の紹介にまるまる一章を費やし、それでも書ききれず、その後も法眼家の歴史を把握することが読者のメイン作業となるのでした。



映画版の方はそこまで錯綜した話ではないので、気軽に観れますけどね。