まこちゃんは何時に来るんだ?

日本映画にも男泣きは数限りなくありますが、わたし的に最高ポイントを記録している作品は、大藪春彦原作・村川透監督・松田優作主演という黄金トリオの作品「蘇える金狼」です。

蘇える金狼 [DVD]

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優作を中心に、上司の成田三樹夫小池朝雄、社長は佐藤慶、脅迫者にソニー千葉先生、殺し屋に岸田森、市会議員に南原宏治という異常かつ凄まじく濃いキャスティング。

ケーシー・ランキンによる音楽も文句のつけようがありません。

蘇える金狼 MUSIC FILE

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主人公・朝倉哲也(松田優作)は、昼は平凡なサラリーマンだが、裏の顔は野望に満ちた犯罪者だ。
部長(成田三樹夫)や次長(小池朝雄)は会社を食い物にして私腹を肥やしている。
そいつらに取って代わってやるのだ。

会社での優作さんは、おなじみのカーリーヘアの上から七三分けのヅラを被っています。とても不気味です。
同僚には岩城滉一もいますが、ただ弁当を食べるだけの出番しかありません。
どんな会社だ、このメンツ。

手始めに、銀行の現金運搬人を襲って現金を強奪する。闘争資金のためだ。
だが、その金はナンバーを控えられたホットマネーであった。


危険な熱い札束を安全な金に替えるため、やくざから情報を聞き出し、市会議員にしてヘロイン売買の元締めの磯川に接触する。
取り引き場に先回りして磯川の私兵たちを皆殺しにし、大量のヘロインを入手することに成功する朝倉。

戦闘に備え、銃の手入れをするシーンは男泣きです。
磯川役は南原宏治。いかにもワルモノという声の演技が最高過ぎました。

ヘロインを武器に、部長の愛人の京子(風吹ジュン)をコマし、重役たちの情報を仕入れる朝倉。
重役たちの不正を嗅ぎ付けた桜井という男(千葉真一)に、脅迫されていることを知り、現金受け渡し現場から桜井を尾行し、金を奪い取るのだった。

ソニー千葉先生、優作の前ではいいところなし。

金を奪ったのが会社の差し金だと思った桜井は、さらに現金を要求する。
重役たちは、興信所の石井(岸田森)に命じ、桜井を殺させる。

依頼を受けたときの岸田森の台詞、


「ギャラ、高いよ〜♪」


この発音は最高。グラサンをかけて杖をついた風貌の怪しさも爆裂気味です。
こんなヤツにそんな大事な仕事を頼んでいいんですか、社長。

桜井を殺した石井は、ギャラの上乗せを要求してくる。
困った重役たちは、今度は社員を殺し屋として使うことにする。

ボクシングをやっていることを巧みにアピールして、「成功したら重役に取り立てる」という約束で抜擢を受けた朝倉。

見事に石井を殺し、消そうとしてきた次長の腕を折り、社長を恫喝し、数億円相当の会社の株を手に入れるのだった。

心配したとおりになりました。しかも、同じことの繰り返しで性懲りもなく失敗しています。
この会社、ほっといても潰れますね

ちなみに石井が撃たれて死ぬシーンでは、壁が上手く一回で壊れなかったので、強引にヒジで叩き壊してます。岸田先生スゴイです。


さて、念願のビッグサクセスを手にした朝倉ですが、手にしてしまえば虚しいもの。
ランボルギーニで早朝の議事堂前を爆走しながら爆笑しても、虚しい気持ちしか残りません。
ちなみに優作さんは車の運転ができなかったので、このシーンはあからさまな合成です。

そしてここからが最大の男泣きポイント。

社長の娘との縁談がまとまった朝倉だが、京子との密会も続けていた。
そんなとき、朝倉はヘロインをすべて部長に売り、現金に換える。

自分は捨てられるのだ。

そう思った京子は、廃墟での朝倉との密会のとき、隠し持っていたナイフで朝倉を刺す。

信じられない、そんな表情を浮かべて手についた血を見る朝倉。
血まみれの両手で、京子の首を絞めて殺す。


京子の死体を崖から投げ捨てた朝倉は、ポケットからチケットを取り出した。
それは、京子と二人で外国へ高飛びするための航空券だったのだ。

ここで、京子の分のチケットをビリビリと引き裂いてバラ撒く優作のバックに、前野曜子の歌う名曲「蘇える金狼のテーマ」がかかります。

・・・くぅぅううう(男泣きの音


曲はそのままに画面は切り替わり、空港のロビーを歩く優作さん。
時折り足がガクガクっとなり、転びます。この動きは最高の味

そして、飛行機に乗った優作さん。
明らかに様子がオカシイのを見たスチュワーデス(中島ゆたか)が心配して寄ってきます。


ゆ「お飲み物はいかがですか?」
優「・・・ワイン。シェドニィシャンベルタン(なんだかよく分からないが、こう聞こえる)、2001年ものだ」
ゆ「・・・??」
優「ボクの友人のナポレオンが愛用していたヤツ」
ゆ「???・・???」
優「ねえ、木星には何時に着くんだ・・・ジュピターには何時に着くんだ・・・」
・・・・ジャジャーン


という、あまりにも有名なラストシーン。
こういう「意味不明なことを言って周りを微妙な空気にする」という芸風は、続く「野獣死すべし」での「刑事さん、リップ・ヴァン・ウインクルって知ってますぅ?」に受け継がれ、今では若手お笑いタレントが多くマネしているわけですね。

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優作さんのモノマネをするタレントも、今では少なくなりました。
竹中直人さんなんか、香川照之さんの登場によってマネされる側に回っちゃいましたからねぇ。


2001年もののワインも、飲める時代になりました。
で、「シェドニィシャンベルタン」ってなんですか?誰か教えてください。