柳美里先生もこの方を見習いましょう

昨日取り上げた「餓狼の弾痕」は「トンデモ本の世界R」で取り上げられたこともあって、大藪春彦ファン以外の方にも有名です。

トンデモ本の世界R

トンデモ本の世界R

で、この作品は構成のムチャクチャさや人物のネーミング(「金高信」やら「小野沢一郎」「梶山静五」など。もう本名で書けよ)が異様なインパクトを与えていますが、実は大藪先生はいきなりこの作品を書いたわけではなく、こういった「要人襲撃・処刑小説」を古くから書かれていました。

野獣死すべし (角川文庫 緑 362-24)

野獣死すべし (角川文庫 緑 362-24)

デビュー作の「野獣死すべし」は短編なので、続編である「野獣死すべし・復讐篇」とのカップリングで本になっていますが、この最初期作品からすでに「京急グループの総帥で、”追い剥ぎ”の異名を持つ乗っ取り屋の矢島」というのが登場します。明らかに、東急コンツェルン創始者で”強盗”の異名をとったといわれる五島慶太をモデルにしていますね。

ご丁寧に、子分の「横田」まで登場します。明らかに横井英樹ですね。

Street Dreams

Street Dreams

作品中で、矢島は主人公の伊達邦彦によって株を買い占められ、グループから追放されて煩悶死します。実在する人物をこんな風に書いて大丈夫だったんでしょうかね。

宴のあと (新潮文庫)

宴のあと (新潮文庫)

この作品で三島由紀夫はモデルとした人物から訴えられていますが、大藪先生はドが付くほどの大物ばかり相手にしているので相手にされなかったのでしょう。

1974年に連載が始まったこの小説では、主人公は「佐倉前首相」子飼いのヤクザを狙撃したのち、雇い主に裏切られ、そして反撃に転じます。
敵は田口首相と政商の水野。言うまでもなく田中角栄小佐野賢治です。
連載開始から一ヵ月後に田中内閣総辞職、単行本が出てから半年後にロッキード事件発覚というのは奇跡的なタイミングですね。この作品では「全日本スピード・ボート協会と船舶事業発展会の終身会長であり、ロックウィード事件で宿敵児島を倒して以来日本の首領にのし上がった商業利権右翼竹山一成」というのが悪役です。


誰がどう見ても一日一善のあの先生です。

処刑軍団 (徳間文庫)

処刑軍団 (徳間文庫)

これらの作品では、敵役は「沖」または「沖山」という首相経験者です。

ソウルから引き揚げてきた大藪先生は、日韓ロビイで暗躍していた政治家の代表といえる岸信介が大嫌いだったようで、最も悪辣で無様な鬼畜として描写されています。


こういった作品の流れの行き着く先として「餓狼の弾痕」があったわけですね。

こういう小説はもう出ないのかなぁ。ライトノベルで誰か書いてほしい。きっとすごいインパクトがあると思いますよ。