ベストバウトは柴田vs後藤

まずはこの記事を。


NEWSポストセブン|買収後売り上げが激増 プロレス人気再燃を新日オーナー語る NEWSポストセブン|買収後売り上げが激増 プロレス人気再燃を新日オーナー語る



新日本プロレスを子会社化したブシロードの木谷社長が、人気再燃と更なる発展プランを語っています。

「うちが子会社化する前の新日本プロレス(以下、新日本)の売り上げは11億4000万円。それが今期は25億円まではいくでしょう。この2年間でお客さんも倍になりました。1月4日の『バディファイトPresentsレッスルキングダム8 in東京ドーム』は去年の倍以上のスピードでチケットが売れていますから。ふふふ。どうやったと思います? 実はね、流行らせるために“流行ってる感”を出したんですよ」

この“流行ってる感”を出すために、大規模な広告を打ったのが功を奏したようで、昨日のドーム興行では選手に大入り袋が配られたそうです。

永田さんのこのツイートを見て、ぼくもこれは只事じゃない、黙っておれんと思ったですね。



プロレスファンとしては、現役を離れてずいぶん久しいぼくですが、ここ2年ほどはたしかに新日がキテるな、と感じることが多かったです。「アメトーーク」あたりで取り上げられることも増えましたし、それも「昭和プロレス芸人」「俺たちのゴールデンプロレス」とかじゃなく、現役の「新日本プロレス芸人」でしたしね。


正直いって、棚橋弘至の試合からはプロレスに不可欠な殺気が感じられないし、オカダ・カズチカは「レインメーカー」のギミックに頼り過ぎで本人の迫力が弱く、内藤哲也は技に説得力が無さすぎ、中邑真輔はパフォーマンスが寒い。いまのトップどころにはそれほど魅力を感じてないんですが、新日本プロレスという運動体から発せられる熱にはただならぬものがあると思う、今日この頃なんです。


というわけで、東京ドームまで行くわけにはいかないけど、近くのシネコンでライブビューイングが催されるというので、こちらに行ってみたんです。
チケットは当日にネットで予約したんですが、「残席僅少」のところを何とか取ることができました。


中継が始まると、東京ドームは3階席まで満員。
ライブビューイングの劇場も満員。


それも、90年代の新日にはほとんど見られなかった、カップル客や子ども連れが目立ちました。
上で挙げた記事には、“今や若者のデートコースに「プロレス会場」が組み込まれるほどなのだという”とありまして、話半分に受け止めていたのですが、ホントだったんですね。
子ども連れもかなりいて、これはいい傾向だと思いました。初代タイガーマスク全盛の80年代初頭には、プロレス会場に少年ファンが多くいたんですが、ぼくと同世代の彼らが成長した90年代になると、マスコミの特異な発達もあってプロレス会場はマニアで埋め尽くされるようになり、少年の姿はほとんど見られなくなりました。当時から「このままではいけない」と警鐘を鳴らす向きはあったのですが、改善されることはなく、ファンの高齢化とともにプロレス人気は冷え込んでいきました。もちろん原因はそれだけではありませんが、新陳代謝の遅れは大きな要因だったと思います。


しかし、今回のライブビューイング会場には少年の姿が多く見られ、中には首からチェーンをぶら下げて劇場入りする猛者(推定年齢9歳)までいたぐらいです。ガキにしちゃ見どころあるじゃねえか。

真壁刀義―Thank youな!

真壁刀義―Thank youな!

まぁ会場は映画館なので、実際の試合会場に連れて行くよりはハードルが低いという事情もあるでしょうけどね。


んで、試合が始まりますが、長らく現場から離れていたぼくからすれば、知らないレスラーも少なくありません。でも、ライブビューイングはスカパーのPPVと同じ内容なので、実況や解説もきちんと流れて、ちゃんと彼らのキャラクター性を教えてくれるので、初心者も、ぼくのような出戻りも安心です。


試合内容や演出は、WWEを参考にしたらしくバリエーション豊かで、かなりお金もかかっています。「新しい時間軸を作る」タイムスプリッターズというタッグがデロリアンで入場したり(ちなみに衣装はオレンジのダウンベスト)、グレート・ムタが入場するときには石見神楽の八岐大蛇が演舞したり、中邑真輔の入場ではポールダンサーが登場したり。かつてのカテエ新日ファンなら怒ってもおかしくありません。エアギターを得意とする棚橋弘至が入場するときには、マーティ・フリードマンが入場曲を生演奏しながら帯同しました。相変わらず何でもやる人だなぁ。でも、アナウンサーがマーティのことを「キング・オブ・ギタリスト」と紹介したのはさすがに言い過ぎだと思いました。試合自体も、一時期と違って技を大切にしており、大技を乱発するよりも得意技が決まるかどうかの攻防を軸にした見せ方で、みんなテーマがはっきりしてました。


今回、ぼくが注目していた試合は2つあって、まずは永田裕志桜庭和志vsダニエル・グレイシー&ホーレス・グレイシー。プロレス人気を凋落させた一因であるグレイシー柔術の選手を、プロレスのリングに上げてタッグマッチをやらせるというのだから、どんな試合になるのか興味深かったですよ。


あれだけプロレスは弱い、柔術が最強だと豪語していた人たちが、金をもらって寝る(どうせ勝つとは思えない)のはどんな気持ちだろう、というゲスい興味もありましたし、永田さんと桜庭のダブル白目も見どころだと思いました。まぁサクが白目をむいても目が細すぎてわかんないんですけどね。


んで、フタを開けてみたらグレイシーはちゃんと悪役レスラーの所作を勉強してきていて、永田組のカットワークにクレームをつけるという、プロレスに挑戦してきた異種格闘技選手の定石もちゃんとこなします。そして、フィニッシュは「自分の道着の裾を使って永田さんを絞め落とし、反則負け」というクラシックなもの。絞める前にちゃんと見栄を切り、裾を使うことをアピールするというムーヴもちゃんとやってました。永田さんの白目もしっかりいただきました。


道着の裾で絞める、という技は日本の柔道では反則ですが(昨年の世界選手権で、女子63?級のヤーデン・ジェルビ選手が日本の阿部香菜選手にこの技をかけたが、マイナー技すぎて審判が反則と気付かずジェルビの勝ちと裁定し、物議をかもした)ブラジリアン柔術ではラペラチョークと呼ばれるテクニックであり、彼らが「なぜこの技が反則なんだ!」と怒るのにもちゃんと理由がある、といえるわけです。ではプロレスルールではどうか、というのは試合のアングル次第なのでここで断言はできませんが、今回の試合では反則フィニッシュとして採用されました。そして、「今度は俺たちのルールでやれ!」と言い出し、さらなる抗争が継続するストーリーになるわけです。
まぁグレイシーコンビはこれがデビュー戦のシロウトですから、試合のクオリティ的には高いとは言えませんでしたが、ロープワークもできない奴らを相手に永田さんもサクも健闘したんじゃないですかね。




もう1つの注目試合は、柴田勝頼vs後藤洋央紀


この2人は高校時代からの盟友で、ともにレスリング部を立ち上げて2人で練習していた仲。柴田が新日を退団し総合格闘技に転身するなど、しばらく接点がありませんでしたが、柴田のプロレス復帰によりまたライバル関係が復活。昨年は2度シングルで戦い、ものすごい喧嘩ファイトを見せています。


これらの試合では、高校の恩師がゲスト解説者として放送席に座るという前代未聞の試みもありました。「先生、今の技はどうですか?」とか聞くんだけど先生はプロレスに関しちゃシロウトだろ……。しかし試合の内容は、棚橋やオカダがやるようなパフォーマンス先行のプロレスとは違う、ゴツゴツした殴り合いを中心とするハードなものでした。これだよ! おれはこういうプロレスが見たかったんだよ! ルックス的にもチャラいイケメン路線とは一味ちがう、味わい深い男の顔だぜ!


後藤は、昨年のG1仙台大会で棚橋の張り手によりアゴを骨折しており、長期欠場からの復帰戦となります。


しかし柴田は、骨がくっついたばかりの後藤のアゴに肘をガンガン入れて、ハードに攻めます。後藤も負けじと肘打ちや頭突きを連発し、骨と骨がぶつかり合うゴツン、ゴツンという音がドームに、ライブビューイングの劇場に響きます。ゾクゾクするほど興奮しましたね。


試合は後藤のピンフォールで終わり、2人が肩を組んで控室へ引き上げていくというエンディングも、爽やかでよろしい。こりゃ薄い本が捗るな!


夕方の5時から始まった興行は、夜の10時までダレることなく進行し、メインは棚橋がハイフライフロー2連発でIWGPインターコンチネンタル(いつの間にこんなベルトを作ってたんだ)王座を奪取。お客さんも盛り上がり、みごと大団円を迎えた……のですが。


マイクでいくらか喋った棚橋が、いちどリングを降りようとして、ファンの声援で何かを忘れたことに気づき、リングに戻って、リング中央でギターケースを開けるパントマイムをします。ユリオカ超特Qが「完成度がものすごい低いところで安定している」、狩野英孝が「マセキ臭がする」と評する、例のパフォーマンスです。


しかし、棚橋がギターを肩から吊るすしぐさを行い、チューニングをする動作を見せ、いよいよエアギターの体勢に入ったところで、実況アナウンサーが「まことに申し訳ありません!」と悲痛な声。
「スカパーでご覧の皆さまは、残念ながらここで放送終了です!」
かくして、棚橋のマセキ臭漂う決め台詞「愛してま〜す」は聞かれずに終わったのでありました。
劇場内には「ええ〜っ」という声がこだましましたが、ぼくはあのパフォーマンスを見るに堪えないので、これでよかったと思いました。


何はともあれ、このドーム大会は試合内容も演出も大成功で、新日本プロレスの人気再燃、第4次ブームの到来を本気で感じさせますね。ライブビューイングという興行形態も、このクオリティで見られるならこれから何回でも行きたい。テレ朝的にも、ゴールデン復帰とはいわないけど放送枠拡大ぐらいはあるだろうなぁ。そして、今の新日本プロレスでは何といっても柴田勝頼後藤洋央紀に大注目!