刑法200条のゆくえ

明日は参議院選挙の投票日で、自民党が進める憲法改正の是非が話題になっております。


9条は以前からよく取り上げられていますが、気になるのはそれだけではありません。自民党による憲法草案には数々の問題があり、その根底には家父長制の復活を願う思想がある、と指摘されています。くわしくはこれらのエントリをご覧ください。

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  • ※傍証エントリ

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(「保育園落ちたの私だ」論争は日本の家族を崩壊させようとするコミンテルンの陰謀、という電波系コラム)


現行の日本国憲法24条と、自民党改憲草案の24条はこちら。

現行版

  • 第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
  • 2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
  • 第24条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
  • 2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
  • 3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。


この条文に関して、深澤真紀氏は婚姻や家族の扶養について、非民主的な法規定が課せられるのではないかと危惧していますが、もしこれが通った場合、ぼくが気になるのは刑法のほうですね。



「父殺しの女性」を救った日本初の法令違憲判決:日経ビジネスオンライン 「父殺しの女性」を救った日本初の法令違憲判決:日経ビジネスオンライン
1968年に起こった、長年にわたり実の父親に肉体関係を強要されていた女性が、何度もの出産と妊娠中絶を経て、ついに父親を殺害した事件。


この事件では、情状酌量の余地が大きかったにも関わらず、当時は刑法200条に尊属殺人の規定があり、親や祖父母などを殺害した者は死刑または無期懲役と定められていたため、心神耗弱などの規定を用いて最大限の減刑をしても懲役3年6か月以上となり、執行猶予をつけることができませんでした。そのため弁護人は、尊属殺人の規定は法の下の平等を定めた憲法14条に違反している、と申し立て、最高裁判決でついに違憲との判断が出たのでした。最高裁大法廷が違憲立法審査権を発動し、既存の法律を違憲とした初の判例として、いまでも名高い裁判でありました。

尊属殺人罪が消えた日

尊属殺人罪が消えた日

その後、この判例により死文化した刑法200条は適用されることなく、1995年の刑法改正で削除されました。いまでは「刑法200条 削除」としか載っておりません。




しかし。



もし憲法24条で「家族は、互いに助け合わなければならない」と規定された場合、尊属殺人の重罰規定もこの条文を根拠に合憲とされ、削除された200条が復活するのではないか、とぼくは危惧しているんですよね。
いったん削除された法律がそのまま復活したことはないでしょうけど、新たな条文ができることは考えられます。かつて違憲とされた内容であっても、憲法自体が変わればまた合憲とされることもあるでしょう。


ただでさえ、社会保障をどんどん削減していこうとしている政権なわけですから、先日NHKスペシャルで放送され衝撃を与えた「介護殺人」も、この義務が規定され、家族の負担が重くなったら、もっと増えることになるかもしれません。その事態に対する処方箋として「厳罰化」が持ち出される可能性は、昨今の社会情勢を見るに、決して低くはないのです。