もしもお江戸にピラミッドがあったら

ドリフターズ 3 (ヤングキングコミックス)

ドリフターズ 3 (ヤングキングコミックス)

平野耕太の『ドリフターズ』3巻のカバーをめくると、恒例の一発ギャグが載っています。今回は「信長がシェフ」浅井長政の髑髏を食器にして料理を盛り付けるものの、安倍晴明やセントジェルミ伯に「しょっぱい」「もっと京風の味付けに」と言われる、という軽いネタでした。史実に伝わっているエピソードを踏まえたネタでもあります。

週刊漫画TIMESに連載された『信長のシェフ』と、ヤングキングアワーズに載っている(もはや「連載している」というより「載ることもある」と形容すべき)『ドリフターズ』では、どっちがメジャーなんだろう。
信長のシェフ 6 (芳文社コミックス)

信長のシェフ 6 (芳文社コミックス)


信長のシェフ』は1月〜3月にテレ朝系でドラマ化されましたが(信長は及川光博)、先週にはフジテレビ系で佐藤賢一原作の『女信長』がドラマ化されました(信長は天海祐希)。

女信長 (新潮文庫)

女信長 (新潮文庫)


エルフを率いて戦ったり、シェフを召し抱えたり、女体化したり、このところ何でもアリな信長ではありますが、そういう風潮に対してこんなツッコミを入れている人もいます。


これから増える?トンデモ時代劇への賛否両論:blogram通信 これから増える?トンデモ時代劇への賛否両論:blogram通信

大岡越前」「水戸黄門」といった長寿時代劇もいつのまにか地上波放送から消えていき、時代劇といえば専門チャンネルBS放送、地上波では年末年始を中心にした特別番組や1クール限定という時代。

そして最近地上波で放送された時代劇といえば、「信長のシェフ」(テレビ朝日系・1〜3月期金曜23時15分〜放送)にしても「女信長」(CX系・4月5日〜6日放送)にしても、タイトルからして“トンデモ時代劇”。

キャスティングや設定の話題性だけでなく、視聴率的に明暗がわかれたことでも両番組はブログ上で話題になっていた。

で、視聴者によるネット上の反応を紹介して、

金さんの桜吹雪や黄門さまの印籠といった“お決まり”とは対極にあるトンデモ時代劇だけに、どのような設定なら視聴者に広く受け入れられるのか制作側も手さぐり状態なのか、そもそも手さぐりしていくべきジャンルなのかも含めて、こういった視聴者の反応を検討材料に今後のトンデモ時代劇の方向性が決まってくるのかもしれない。


こうシメていますが、そもそも時代劇というのは元来トンデモなものです


近代日本の時代劇は、その原点に立川文庫の存在があります。

猿飛佐助―立川文庫傑作選 (角川ソフィア文庫)

猿飛佐助―立川文庫傑作選 (角川ソフィア文庫)

最大のヒーローだったのが猿飛佐助で、彼と真田十勇士の荒唐無稽な活躍が当時の少年たちを熱狂させました。


時代が下ると、白井喬二国枝史郎吉川英治らが伝奇小説を多数発表。戦後には山田風太郎忍法帖シリーズで歴史を大胆に再解釈しています。現代では荒山徹による深刻な歴史破壊が問題になっています。

柳生黙示録

柳生黙示録


映画や劇画、ドラマに目を向けると、『子連れ狼』や『必殺シリーズ』が史実という面で見ればいかにトンデモなく、それでいていかに面白いかはみなさんよくご存じのところです。

必殺仕切人 VOL.1 [DVD]

必殺仕切人 VOL.1 [DVD]

(とくにトンデモ度が高いのが『必殺仕切人』。江戸にピラミッドが出現したり、超能力ブームが起こったり、鳥人間コンテストが開催されたりするスゴいドラマであった)


時代設定だけ江戸時代にして中身は実質的に現代劇、というドラマもよくあります。必殺シリーズも本質的には時代設定にそれほど意味はありませんでした。カラオケとかサラ金とかテレクラとか出てくるし。


こういうドラマはよく批判の対象になりますが、でも、『仮名手本忠臣蔵』や『伽羅先代萩』など、江戸時代の歌舞伎や浄瑠璃でいう「時代物」だって、赤穂浪士討ち入りや伊達騒動など、当時のタイムリーな事件を太平記の時代に置き換えたものだったわけですよ。

時代劇の皮をかぶった現代劇、というのも実は江戸時代から続く日本の伝統なんですね。


というわけで、トンデモ時代劇がこれから増えるのだとしたら、むしろ大歓迎したいですね。シェフを召し抱えた女信長が異世界でキリストと戦うドラマがあったって、驚くにはあたりません。いやそこまでパクったらさすがに驚くけど。