原潜拿捕作戦

先日、NHKで史上はじめて生きているダイオウイカの姿が放送され、大きな反響を呼びました。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130115-00200022-mantan-ent

<ダイオウイカ>泳ぐ姿世界初公開で高視聴率16.8%

世界で初めて動画撮影に成功した地球上最大の無脊椎(せきつい)動物「ダイオウイカ」の映像が初公開されたNHKスペシャル「世界初撮影!深海の超巨大イカ」が13日午後9時からNHK総合で放送され、平均視聴率は16.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と高視聴率を記録した。


 ダイオウイカは、大きなものでは、触腕(2本の長い腕)まで入れると全長18メートルにもなるという地球上最大の無脊椎動物。欧米では“船を襲う海の怪物”クラーケンのモデルとして知られ、古くから船を沈めると恐れられてきた。これまで世界中のメディアや研究者が深海で泳ぐ生きた姿の動画撮影に挑戦してきたが、すべて失敗に終わり、「深海最大の謎」とされてきた。

 番組は、NHKNHKエンタープライズ、米ディスカバリー・チャンネルの国際共同制作。11カ国50人のスタッフからなる国際チームの奮闘を追い、昨年夏に小笠原諸島の海域で約3メートルのダイオウイカの撮影に成功。その姿が映し出された。撮影のための調査、準備期間は10年間、潜航回数は100回、潜航時間は400時間に及んだという。

 16日深夜(17日午前)0時25分から総合テレビで再放送される。(毎日新聞デジタル)

今回のダイオウイカは、長い触腕が切れていたので全長3mほど、切れていなければ7〜8mほどというから比較的小柄な個体ですが、きわめて貴重な映像です。小笠原諸島の沖、水深630mで撮影されたとのこと。
残念ながらぼくは見逃したのですが、半径ワンクリック圏内でもかなり盛り上がっていたようです。
ダイオウイカのドキュメントを観る映画脳な人々 - Togetter


ところで、実際に動画が撮影されたのは今回がはじめてですが、フィクションの世界ではダイオウイカが狩られることもあります。

偽装諜報員 (徳間文庫)

偽装諜報員 (徳間文庫)

大藪春彦の『偽装諜報員』。これは1968年に書かれた小説で、当時の大藪春彦は007シリーズの人気に影響を受け、政府や国際組織のエージェントが秘密兵器を駆使して荒唐無稽な活躍をする作品を量産していました。この『偽装諜報員』は、前年の『破壊指令NO.1』に続いて、秘密工作員・矢吹貴が主人公を務めます。前作では内閣調査室の破壊工作員だった矢吹は、今回は秘密結社PPFのエージェントとしてさまざまな国際謀略に挑みます。矢吹はマッチョなイケメンで銃と車の名人で女殺しのプレイボーイだ、というのは言うまでもないことです。


その矢吹がダイオウイカと戦うのは、ソヴィエトの新造原潜“海の狼”を拿捕するという困難な任務に挑むエピソード「原潜拿捕作戦」。
この任務のため、矢吹は水深100m以上の潜水訓練を受けるのですが、肺が潰れそうな苦痛に耐えてついに150mをマークしたところで、恐ろしい怪物に襲われます。

 矢吹は水平に泳ごうとした。そのとき、大きく後ろから水中波がかぶってきたので、反射的にそちらを振り向く。
 ランプのように光る二つのものが、急激に矢吹に迫ってきていた。目だ。その上に巨大な三角のトンガリ帽のようなものが見える。その下には十メーターほどの触腕を持った無気味な十本の足が見えた。
 化け物のようなイカだ。大王イカに違いなかった。全長六メーター程度の大王イカならマッコウ鯨の餌だが、全長二十メーターを越すこんな大物だと、マッコウと互角に闘うといわれている。
 そいつが、ジェット機のように海水を頭の漏斗から噴射しながら矢吹に迫ってくるのだ。矢吹は鉛のウエートをつけて特殊ゴムのウエット・スーツの腰に巻いたベルトから、水中拳銃を引き抜いた。
 シリンダー弾倉を持つリヴォルヴァー式のその拳銃は、弾薬がジャイロ・ジェットになっていた。自力で推進するのだ。ロケットと同様に、発進の瞬間の弾速はゼロに近く、銃口を離れてから加速がついていくジャイロ・ジェット水中実包の貫徹力の不足をおぎなうために、弾頭には炸薬が仕込んである。
 矢吹の前方十五メーターのあたりでその大王イカは急停止し、頭と胴を立てた。
 見事な怪物であった。青みがかった頭と胴の長さだけで八メーターはたっぷりある。目玉で直径三十センチもあるのではないかと思えた。
 大王イカは、矢吹を冷然と見据え、そろそろ体を動かしながら、吸盤だらけの触腕をのばしてきた。
 矢吹は頭の真ん中を狙って水中拳銃の引き金を絞った。拳銃は気泡に包まれ、発射されたジャイロ・ジェット弾は、急激に加速しながら、狙ったところに吸いこまれていったように見えた。
 しかし事実は、滑りやすい粘膜に邪魔され、一度命中した弾頭は上に向きを変えた。大王イカの頭の上にある胴のヒレのあたりで弾頭は爆発する。
 相撲の軍配形をしたヒレが何分の一かちぎれた。緑色の血液のような体汁が吹きでる。矢吹には、怒り狂った大王イカが吠え声をあげたように見えた。
 大王イカの目の下の、巨大な鷲のそれのようなクチバシが開かれたのだ。次の瞬間、墨汁嚢から、おびただしい墨が吹きだされた。
 あたりが真っ暗闇になったと思った途端、矢吹の銅は物凄い力で締めつけられた。大王イカの二本の触腕がまきついたのだ。
 矢吹の体は下に引きずりこまれた。体は外と内側からちぎれそうになる。吸盤の力でウエット・スーツが裂けた。
 しかし、真っ暗ななかで、怒りに燃える大きな怪物の目が鈍く見えるのが、矢吹にとって目じるしになった。そいつが、矢吹にそろそろと近づいてくる。その下には開いた鋭いクチバシがあるはずだ。
 矢吹は、無理に右腕を捩り、水中拳銃の狙いを左の目玉につけて発砲した。
 狙い通りの位置で、爆発の閃光がきらめき、爆風が波となって矢吹までを叩きつけた。大王イカの目の光が一つ消えた。
 苦痛にのたうった大王イカは、矢吹を二本の触腕で締めつけたまま、海水を漏斗から噴出させて、さらに深いほうに逃れていく。
 矢吹は苦痛に耐えられそうもなくなった。墨汁の煙幕から出た傷だらけの大王イカは、噴出をとめると、巨大なクチバシを開き、矢吹のヘルメットをかぶった頭を一噛みに砕こうとした。
 それが、矢吹が体力の限界にくる前の最後のチャンスであった。開いたクチバシのなかにも一発射ちこむ。
 大王イカの全身から急に力が抜けた。矢吹を放すと、ゆらゆらと浮上していく。矢吹が素早くヘルメット・マスクのガラスの墨を拭い、左腕の水深計を覗くと百七十メーターを示している。大記録だ。世界新記録かもしれない。それでも矢吹は生きていた。

大藪春彦の小説には、ハンティング中に手負いの猛獣が逆襲してくる描写がちょくちょく見られますが、そのヴァリエーションとしてこのダイオウイカ狩りもあるんですね。それにしても、ダイオウイカまで拳銃で仕留めるあたりはさすがです。


この試練を生き延びた矢吹は、ジンベイザメ型の特殊潜航艇を開発させ、それを使って原潜拿捕作戦をみごと成功させます。『サイボーグ009』かと思いましたが、当時はこういうのがウケていたんですね。


んで、作戦は成功したものの、潜水病の後遺症で矢吹はEDになります。矢吹の身の回りの世話をする南国娘のアンジェリーカ(褐色の肌で、花柄のブラに毛皮のパンツというわかりやすい服装)ともどもおおいに嘆くのですが、満月の夜にカニの大群が大移動するのに出くわしたショックで、急激にエレクチオンするのでありました。

またえらく変わった性癖だなオイ。