愛情無用

私家版 差別語辞典 (新潮選書)

私家版 差別語辞典 (新潮選書)

上原善広の『私家版差別語辞典』を読みました。


被差別の食卓 (新潮新書)

被差別の食卓 (新潮新書)

この人は『被差別の食卓』がすごく面白かったので注目しているのですが、今回のはちょっとバランスが悪いものの、一部は読み応えがありました。


差別用語を大きく「路地(『部落』の文学的表現)」「心身障害者」「職業」「その他」に分けて、いろんな言葉を解説しているのですが、「路地」のところはさすがに当事者しか持てない重みに溢れた内容になっています。


東北地方に部落差別はほぼ存在しないことになっていますが、それでも、仙台には「革坊(カボ)」、秋田県角館では「下町(シモマチ)」、秋田・山形では「ラク」と呼ばれるエタ身分の人がいたとのこと。「カボ」なんて言葉は22年仙台に住んでいるぼくもまったく聞いたことがありませんでしたが、現在の宮城刑務所周辺がその地域だったようです。


また、江戸時代の乞食は許可制で非人頭に支配されており(『ジョジョ』第三部のカイロの街と同じ)、また諜報活動も業としていて藩内の治安維持に役立っていたそうですが、現代の刑事ドラマなどでホームレスの情報屋がよく出てくるのも、その辺にルーツがあるのかもしれません。

(↑安田一平は警察を退職したはずなのに、最近なぜか何の説明もなく「ビジネスジャンプ」で新作が連載開始された。誰が得するんだよあの漫画は)


ただ、「路地」以外のカテゴリはわりと表層的にさらりと流されており、また著者はそんなにサブカルチャーに詳しい人ではないので、「かたわ」の項では欠かせない『ブラック・ジャック』の「木の芽」のエピソードを載せていないし、
(↓右が旧版、左が新版。明らかに「カタワ」という語の差別性を訴えている話なのに、まったく意味がなく改悪されている)


「きちがい」の項に、『怪奇大作戦』の「狂鬼人間」のエピソードも載っていません。

封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで (だいわ文庫)

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あと、「ギリヤーク」の項には

戦前の日本ではオロッコ、オロチョンの方が通りがよかったが、村上春樹氏の小説『1Q84』で一躍、ギリヤークの名が有名になった

とありますが、新必殺仕置人』の死神(河原崎建三)についても一言も触れられていませんでした。

まぁ、サハリンの北方民族のはずがなぜかエスキモーの遮光器をつけて捕鯨用のモリを武器にするという考証には問題があるかもしれませんけどね。

新 必殺仕置人 VOL.11 [DVD]

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