お父さんのバックドロップ

ここ数日、うちのブログに「バックドロップとジャーマンスープレックスの違い」という検索ワードで飛んでくる人がいるので、今日はこの二つについて技術的な解説をしておきます。

どちらも、相手を背後から抱えて後ろに反り、後頭部から落とすように投げるという比較的似通った技なのですが、実は明確な違いがあるのです。


まず最初に確認しておきたいのが、意識していない人が多いと思いますが、「プロレス技には右と左がある」ということ。


これは、保守的な技と革新的な技とかそういうことではなく、右利きと左利きによって技のかけ方が左右逆になる、ということ。

柔道ならば、襟と袖という組み手の左右がわかりやすいので知っている人も多いと思いますが、左右の区別はプロレスにも存在します。


たとえば、4の字固めという技がありますね。

これは、かけられた選手の脚の形が数字の4に見えることからついた名前ですが、上から見て本当に「4」の形に見えるためには、受ける側の右足を曲げて左足を伸ばさないといけません。

ところが、右利きの人がこの技をかけると、多くの場合相手の左足を曲げて右足を伸ばすことになり、左右逆の「4」の字が出来上がります。

これは、力道山最後の試合においてザ・デストロイヤーがかけた瞬間をとらえた有名な写真ですが、これを見ると左右逆の4になっているのがよくわかると思います。

武藤敬司やリック・フレアーの4の字も、これと同様です。


ジャック・ブリスコやジョニー・パワーズ、パット・パターソンなど、これとは逆にちゃんと「4」の字に見える4の字固めを使っていた人もいますが、「受けづらい」と対戦相手には不評だったそうです。




よく、ハサミや包丁など右利き用に出来ているものが多いから左利きは不便だ、と言われますが、プロレス界でも左利きは不便なんですね。



では、バックドロップを見てみましょう。

  • ジャンボ鶴田伝説のバックドロップ43連発(前にも一度取り上げているが、何回見てもまったく飽きない)

  • 川田利明デンジャラスバックドロップ34連発


これで、合計112発のバックドロップを見ることができますが、そのすべてが、相手の左脇に自分の頭を入れる形で相手を抱えて投げていることがわかると思います。

こうすると、自分の右手が主に相手の体を抱えることになるんですね。
これが右のバックドロップ、ということになります。



これに対し、ジャーマン・スープレックスはこう。

  • アマレスでの例


このように、相手を真後ろから抱えて投げるのがジャーマン。

バックドロップと違い、左右の区別がないんですね。

  • ベイダーvs猪木での例


このように、必ずしもブリッジを効かせる必要はなく、真後ろからひねりを加えずに投げる場合は、バックドロップではなくジャーマン・スープレックスに分類されます。


つまり、

  • 右で投げるのがバックドロップ
  • 真ん中で投げるのがジャーマン

と、覚えておけばよいでしょう。おわかりいただけましたでしょうか?



ちなみに。



バックドロップによく似た技として、柔道の裏投げがあります。



これは、1989年の東京ドーム初のプロレスにおいて、ロシアの柔道家ショータ・チョチョシビリアントニオ猪木をKOしたことでプロレスファンにも知られるようになり、馳浩が得意としておりました。

この写真でもわかるように、バックドロップとは左右が反対になり、相手の右脇に入り込んで、自分の右手を相手の首筋に回し、ブリッジを利かせて相手の体を跳ね上げ、背後に投げます。


間違えやすいので気をつけましょう。