There Must Be More To Life Than This

さて、はてなダイアリーからはてなブログへのインポートも完了したことだし、1本ぐらいは新しい記事を書いておこう。

 

この2ヶ月ほど、ぼくはだいたいいつも『ボヘミアン・ラプソディ』のことばかり考えてすごしておりました。

 

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

 

 フレディ・マーキュリーの波瀾に富んだ人生を描いたこの映画がヒットし、第三次クイーンブームを引き起こしていることはみなさんご存じかと思います。

 

はっきり言いましてね、コレ、映画としては欠点だらけですよ。

 

性的・民族的マイノリティがそれゆえに悩み、周囲との軋轢を乗り越えて自分を受け容れるという物語の骨子も、成功したバンドが金銭的・音楽的な問題で解散寸前になるものの和解して大きなステージを成功させる、というストーリーの枠組も、言ってしまえば凡庸な、よくある話です。まぁ実際にあった話だからフィクションにもよくある話になるんだけど。

 

もっと大きな作劇上の欠点は、クライマックスとなるライヴ・エイドで演奏される曲目のことです。

映画では、1985年のライヴ・エイドに出演するまでの数年間、フレディがソロ活動を開始したこともあってクイーンは解散状態だったように描かれています。アフリカの飢餓を救うチャリティというライヴ・エイドの趣旨に賛同して、それまで何年も演奏していなかったメンバーたちが集結し、リハーサル合宿を経てウェンブリー・スタジアムのステージに立つ、という、ドラマティックな筋立てになっています。

しかしこれは史実とは異なり、実際には、クイーンは1984年にアルバム『ザ・ワークス』を発売しています。

 

ザ・ワークス

ザ・ワークス

 

前作『ホット・スペース』がディスコ・ミュージックへの傾倒により従来のファンから酷評されたこともあり(映画の中では、このアルバムを発売したときの記者会見で、フレディのセクシュアリティについてマスコミから責めたてられている) 、次作『ザ・ワークス』は原点回帰ともいえるロックテイストに溢れた作品となりました。このアルバムからは「永遠の誓い」や「自由への旅立ち」、そしてライヴ・エイドでも演奏された「RADIO GAGA」「ハンマー・トゥー・フォール」といったヒット曲が生まれています。

 

このアルバムを引っ提げて、クイーンは84年秋から85年春にかけ、ヨーロッパ、アフリカ、南米、オーストラリア、日本を回る大規模なツアーを敢行しました。その、長きにわたったワールドツアーの総決算ともいえるのが、1985年7月のライヴ・エイドだったわけです。

 

しかし、映画では『ザ・ワークス』のレコーディングとそれに伴うワールドツアーを省略したため、ライヴ・エイドで演奏された「RADIO GAGA」「ハンマー・トゥー・フォール」が、いつどこで作られたのかわからない、ぽっと出の曲になってしまっているんですね。

 

これは、出来事の時系列が史実とは異なることより、かなり大きなドラマ上の欠点と言わざるを得ないでしょう。フレディのHIV感染がいつわかったのか、なんてのはプライベートな問題なので史実との違いをあげつらってもしかたないし、フレディがHIV感染を知った場面で「リヴ・フォーエヴァー」が流れるけどまだ作曲されていないはずだ、なんてのもどうだっていいような話です。でも、楽曲の扱いがドラマ的に弱い、というのはいかんともしがたいです。

 

性的マイノリティの描き方がステレオタイプだとか、そういう批判は専門の方におまかせするとして、ぼくが指摘する欠点はここといたします。

 

 

しかし!!!!!

 

 

そんな欠点を補って余裕でおつりがくるぐらい、楽曲の持つ力とそれを活かす演出、あとメンバーのそっくり具合(ボブ・ゲルドフまでそっくりで笑った)が素晴らしいので、最終的な採点は100点満点で9億9999万9960点(ドラマ的な弱さのため10億点から40点減点)といたしましょう。なお応援上映で観ると楽しさ1万倍で10兆点(マイナス40点は誤差の範囲として丸めさせていただきます)となります。

 

たぶんコレね、おおまかなストーリーに楽曲をあてはめていって、コンセプトアルバムとしてサウンドトラックから作っていったら、こうなるんじゃないかという気がしましたね。エンドロールで流れる「ドント・ストップ・ミー・ナウ」はアンコールで、その後の「ショー・マスト・ゴー・オン」はカーテンコールというか客出しBGM。そんな感じです。

 

あと、あくまでクイーンというバンドの物語なので、フレディのソロアルバム『Mr.バッドガイ』が不当に低く評価されているような気もするんだけど、まぁブライアン・メイロジャー・テイラースペシャルアドバイザーに迎えられている映画だから仕方ないわなッ!

 

Mr Bad Guy

Mr Bad Guy

 

 


Freddie Mercury - There Must Be More To Life Than This (1985)