Last Train to Paris

イギリスから届いたニュース。


CNN.co.jp : 新5ポンド札に「獣脂」、菜食主義者から非難の声 英 CNN.co.jp : 新5ポンド札に「獣脂」、菜食主義者から非難の声 英

ロンドン(CNNMoney) イングランド銀行(英中銀)は30日までに、9月から流通が始まったポリマー(プラスチック)製の新5ポンド札から獣脂の痕跡が認められたと明らかにした。ベジタリアンやビーガンなどの菜食主義者から非難の声があがっており、一部からは中銀に対して紙幣に動物由来の生成物を使うことを停止するよう求める声も出ている。
ネットの嘆願サイトには、「このことは、ビーガンやベジタリアンヒンドゥー教徒シーク教徒、ジャイナ教徒、そのほかの英国に住む何百万人にとって受け入れられない」とする文章が公開され、すぐに1万5000人以上から署名が集まった。

イングランド銀行の広報担当者によれば、この問題を把握したのはごく最近で、紙幣に使われるポリマーはイノビア・フィルムズ社から提供を受けたものだという。

イノビア・フィルムズの広報担当者は、同社のポリマーにはわずかながら獣脂の痕跡が存在していることを認めた。ある供給業者が、静電気防止のために獣脂を使ったという。供給業者の名前は明らかにしなかった。獣脂の除去に向けた取り組みを進めているが、非常に複雑な工程で時間がかかりそうだという。
広報担当者によれば、同社も最近まで獣脂が使われていたことは認識していなかった。同社の方針では、動物由来の原料を故意に製品に加えることはないという。
イングランド銀行はここ数年、紙のものよりも汚れに強く耐久性も高いなどの理由から紙幣をポリマー製に切り替えることを進めている。

お札を刷る工程のどこで動物性油脂を使うのかよくわかりませんが(臭くないのか、と思う)ベジタリアンの人たちは、動物性のものを食べないだけでなく日用品に使うのもダメなんですね。必殺のダイビング・ニー・ドロップでユーコン・エリックの耳をそぎ落とし、自殺に追い込んでしまった“殺人狂”キラー・コワルスキーが、血の海にぴくぴく蠢く耳を思い出すためいっさい肉が食えないというノイローゼにとり憑かれ、徹底した菜食主義になったというエピソードは有名ですが(梶原一騎の、われわれ世代に幻想を植え付けた罪は重い)、ベジタリアンにもいろんな動機があるんですね。

梶原一騎の創作はともかく、現実のキラー・コワルスキーはコンディショニングのためベジタリアンに徹していたそうですし、庵野秀明は偏食のため結果的にベジタリアンになっているそうですが、もっと思想的な観点から菜食主義になっている人もいます。ブリジット・バルドーが動物保護のため毛皮製品の取引に反対しているのは有名ですし、厳格な人になると皮革製品のみならず、シルクやウール、羽毛なども使わないそうです。そういう人たちからすれば、動物性油脂の付着した、穢れた紙幣なんてとんでもない、ということになるでしょう。

Last Train to Paris

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それにしても、ネットの嘆願サイト(change.orgかな?)に載っているというコメント「このことは、ビーガンやベジタリアンヒンドゥー教徒シーク教徒、ジャイナ教徒、そのほかの英国に住む何百万人にとって受け入れられない」が、味わい深いというか。


これじゃセポイの反乱だよ。


インド大反乱 - Wikipedia インド大反乱 - Wikipedia


最近では「インド大反乱」と呼ばれるこの事件は、イギリスが植民地化を進めていた19世紀中期のインドで、東インド会社が編制したインド人傭兵(セポイ、またはシパーヒーと呼ばれた)が中心となって蜂起したものでした。


そのきっかけになったといわれているのが、傭兵たちに支給されたエンフィールド銃の薬包(当時はまだ前方装填式だったため、弾丸と火薬をひと包みにして紙で包んだセットを使用し簡便化していた)に、防水のため牛豚の脂を塗られていたことです。これが、牛を神聖視するヒンズー教徒や、豚を穢れた動物として忌避するイスラム教徒の兵士たちに対する、キリスト教への改宗強要だとして傭兵たちが激怒し、反乱を起こしたといわれています。


(もちろんその背景として、イギリスによる搾取と、それによりさまざまなインド社会の歪みが表面化したことがあるのは言うまでもない)


インド大反乱は1年ほどで鎮圧され東インド会社も解散、インドはイギリス本国が正式に統治する、大英帝国の一部となったわけですが、イギリスがEUからの離脱を決定した今年に、かつての帝国主義時代を思わせる事件が報じられるというのは、なんとも歴史の皮肉を感じさせる出来事であるというか、なんというか。