王者の闘い

山中慎介がアンセルモ・モレノを挑戦者に迎えたWBCバンタム級タイトルマッチが挙行されました。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150922-00000122-nksports-fight

山中慎介V9「苦しい戦いだった」モレノ判定で下す

<プロボクシング:WBC世界バンタム級タイトルマッチ>◇22日◇東京・大田区総合体育館


 WBC世界バンタム級王者山中慎介(32=帝拳)が、苦しみながら9度目の防衛に成功した。前WBA同級スーパー王者の挑戦者アンセルモ・モレノ(30=パナマ)の防御を打ち崩すことはできなかったが、後半王者の意地を見せ反撃し判定2−1(113−115、115−113、115−113)で勝利した。

 試合後、山中は「最後までパンチが当たらない苦しい戦いだった。内容は満足いかないが、勝ったので次がある」と息子を胸に抱き安堵(あんど)の表情で振り返った。

 防衛回数を国内歴代4位に伸ばした。戦績は26戦24勝(17KO)2分けとなった。

試合経過はニュースのリンク先にくわしく載っていますが、まさに薄氷を踏むような判定となりました。


12ラウンドを通して、クリーンヒットはモレノの右フック一発だけ。あとは、山中がひたすら“神の左”を狙うものの、モレノが持つ世界一のディフェンス技術に阻まれ、あと数センチ深く打ち込むことがどうしてもできず、モレノも“神の左”を打たれないことで精一杯。それでも、10ラウンドには浅い左の一発でモレノをグラつかせ、あと一歩まで追い込む場面もありました。どっちの勝ちでもおかしくない内容でした。
「噛み合わない試合」と評する向きもあるようですが、むしろ、お互いの持ち味がフルに発揮されたといえるでしょう。モレノは圧巻の防御で山中の攻撃を制し、山中はそれでも最強のパンチ力でわずかな隙を狙い続け、クリーンヒットを許さないモレノに、ガードの上からでもダメージを与えたのです。


終盤になると「攻める山中」と「守るモレノ」の図式が強まり、モレノがクリンチする場面が目立ちます。8ラウンド終了時の公開採点ではモレノがリードしていて、9ラウンドではクリーンヒットで山中がグラつく場面もあったのですが、これで優位に立ったと確信したのか、モレノは守勢に入りました。後のない山中は10ラウンドに“神の左”を不完全ながらヒットさせ、そこから捨て身の攻勢に出ます。さすがのモレノも有効な反撃を示すことができず、終盤のポイントは山中に流れ込むことになったのです。


モレノに敗因があるとしたら、彼があまりに長く王座に着きすぎていたことでしょう。


アンセルモ・モレノは2008年から2014年まで、6年にわたりWBAバンタム級王者として君臨していました。
(2010年からはスーパー王者に格上げ)


モレノはそのディフェンステクニックを活かし、数々の強豪を下してきましたが、その過程ですっかり「王者の闘い方」が染み付いてしまったのでしょう。
チャンピオンに必要なのは、まず何より負けないこと。勝つことはその次、倒すことはそのまた次です。引き分けでも防衛になるチャンピオンは、それでいいのです。


しかし、今日のモレノは挑戦者の立場であり、しかもアウェイ試合にも関わらず、王座にいる者だけが許される闘い方を選んでしまいました。最終11、12ラウンドのクリンチ連発が、その意識を物語っています。良くいえば横綱相撲、悪くいえば、王座にあぐらをかいた戦法です。
チャレンジャーは、負けないことより、勝つことより、まず倒すことを考えなければ、王座は奪取できない。それがプロボクシングというものです。モレノほどの強豪であっても、例外ではありません。


「立場が逆だったら」「山中がアウェイだったら」という意見もあるとは思いますが、どんなスポーツにも「たら」「れば」は意味がありません。プロボクシングはビジネスの側面が大きいスポーツで、どっちが主催してどっちのホームでやるか、というリング下での交渉まで含めて、闘いなのです。
(政治力だけで王座を簒奪したようなボクサーも、いることはいるケド)


山中にとってはキャリア最大の苦闘でしたが(たぶんvs岩佐亮祐の日本タイトル戦以来であろう)、実力も相性も含めて、バンタム級モレノ以上の難敵はおそらく存在しません。この闘いを制したことで、山中の名声はさらに高まるでしょう。11月には、同門の三浦隆司がラスベガスでWBC世界スーパーフェザー級の防衛戦をやりますし(メインエベントはミゲール・コットvsサウル・アルバレスWBC世界ミドル級戦)、山中も次はアメリカ進出が期待されるところです。