天国と地獄
本日は、東北六県のお祭りが一堂に会する「東北六魂祭」初日でしたが、会場となった仙台市の定禅寺通は、阿鼻叫喚の地獄絵図だったようで。
http://www.kahoku.co.jp/news/2011/07/20110717t15001.htm
16日のパレードは予定の午後5時を20分程度遅れてスタート。沿道に収まりきれなくなった観光客は定禅寺通の車道にもあふれ、午後6時ごろには青森のねぶた運行や秋田竿燈まつりのパフォーマンスが中止された。主催者によると、当初の人出見込みは5万人だったが、実際には13万3000人の人出があり、パレードの見物客は8万3000人に上ったという。
当初の見込みのざっと三倍の人出だったといいますから、そりゃ混乱もするでしょう。現地では地下鉄がパンク状態になって乗れなくなったり、沿道のコンビニから食料品が消えたり、「子どもがつぶされそう」と110番通報が殺到したり、26人が熱中症で搬送されたりと大変な騒ぎだったようです。また、係員の制止を無視して道路の中央に出たり、ゴミを散らかしたりと観客のマナーの悪さも伝え聞いており、今後の課題となりそうです。
そんな仙台ですが、この会場から数百m離れた五橋の仙台市福祉プラザでは、学習院大学教授の中条省平先生をお迎えして「せんだい文学塾」講座が開催されました。
小説家になる!―芥川賞・直木賞だって狙える12講 (ちくま文庫)
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中条先生の講座はいつもと違い、受講生やコーディネーターの池上冬樹先生、ゲストの柚月裕子先生(最新作『最後の証人』文庫解説を中条先生が書いている)に発言を求めることなく、提出されたテキストに細かく「ここはこう変えて、ここを削って、この文章とこの文章の順番を入れ替えて……」と具体的な指摘を加えられます。二時間にわたりノンストップで話される、その話しぶりはまさに圧巻でした。
小説を書くにあたって、書き手は主人公の人物像をしっかり掴んでおくことが必要です。自分とは違う思考、行動をするその性格をしっかり掴んでいないと、ストーリーに都合に合わせたちぐはぐな行動をとらせてしまいます。
それを防ぐためには、地の文に「とりあえず」「なんとなく」という言葉を使ってはいけない、とのご指導。
仮に主人公の主観では「とりあえず」「なんとなく」何かの行動を起こしていたとしても、作者はその内面を(主人公自身が自覚していないレベルでも)しっかり把握しておき、内的な必然性を持たせておかなくてはならないんですね。とくに短篇では、無駄な行動をさせるヒマはありません。短くコンパクトに収めることが、文章にキレを持たせる秘訣です。
また、「会話文に『ああ』とか『ええと』など合いの手を入れるとテンポが悪くなる」「地の文に『右』『左』と書いても、視点となる人物の向きが変われば逆になる。別の指標で方向を表すべし」など、中条先生のアドバイスはとにかく的確でためになります。
今回の講座では、東日本大震災を受けて、地震に猛烈な強迫観念を持っていた谷崎潤一郎が関東大震災以前に書いた、神経症的な地震恐怖を描いた文章や、『三陸海岸大津波』が没後五年を経てベストセラーになっている吉村昭がノンフィクションものを手がけるようになる前に書いた『少女架刑』を例に出し、災害という現実が創作者に与える影響についても触れられました。
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『三陸海岸大津波』の文庫解説では、高山文彦が「津波とはゴジラのようなものだ」という意味のことを書いていますが、今回の東日本大震災では、津波のあとに本当にゴジラ(によって象徴される放射能災害)がやってきてしまった、という中条先生のヒトコトもまことに味わい深かったです。
講座終了後の懇親会も、定禅寺通から離れた場所で開いたため、さしたる混雑に遭遇することもなく、無事に一日を終了することができました。とにもかくにもラッキーな一日でございました。