オン・ザ・ロード

鉄道ファンにも「乗り鉄」「撮り鉄」などいろんなジャンルがありますが、いっぷう変わった「乗り鉄」がいたようで。


http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110824/crm11082421290032-n1.htm

大学生3人、貨物列車で旅行?! 特急で“送還” 滋賀

 24日午後5時ごろ、大津市南小松のJR湖西線近江舞子駅で、停車中の松山発金沢貨物ターミナル行き貨物列車(21両編成)に「人が飛び乗ったようだ」と、ホームにいた男子中学生が駅員に知らせた。貨物列車は出発したが、運転指令が同駅から約7キロ先の北小松−近江高島間で停車させ、運転士が13両目付近にいた男3人を発見した。

 県警大津北署は、鉄道営業法違反の疑いもあるとみて3人から事情を聴いている。3人は19〜20歳の男子大学生だったという。

 JR西日本は、対向の富山発大阪行き特急サンダーバード34号に3人を乗せて救助。上下5本が運休、15本が最大約1時間遅れ、約3200人に影響した。

この三人が罪に問われるかどうかわかりませんが、彼らが『北国の帝王』を観たことがあるかどうか、真面目に訊いた方がいいと思いますね。

名匠ロバート・アルドリッチ監督の1973年作品『北国の帝王』は、1930年代の恐慌下のアメリカを舞台に、列車に無賃乗車しようとする浮浪者(ホーボー)リー・マーヴィンと、冷酷非常な取締りで恐れられる車掌(無賃乗車を見つけると容赦なくブチ殺す)アーネスト・ボーグナインの戦いを描いた名作です。薄汚れた服装のおっさん二人が殺し合いをするという、華やかさのかけらもない映画ですが、汲めども尽きぬ味わいに満ちており、今でも(多くは男子の)ファンに愛されています。


この映画において、主人公の「北国の帝王」ことエース・ナンバーワン(マーヴィン)は真に自由な魂の持ち主として描かれており、その自由さを許さないシャック車掌(ボーグナイン)は社会秩序の象徴となっています。エースは激闘の末シャックを列車から叩き落しますが、彼に憧れてついてきた若者シガレット(キース・キャラダイン)も「お前は北国の帝王にはなれない」と橋の上から突き落とします。シガレットはエースを利用して自分がナンバーワンのホーボーになろうとしており(そんなもんになって何の得があるのかわからんが)野心に取り付かれた彼には真に自由な心がないからです。


二十世紀前半のアメリカを描いた映画では、鉄道が「秩序」を象徴しているものが目立ちますね。


例えば『明日に向って撃て!』。

ブッチ・キャシディサンダンス・キッドは列車強盗を繰り返し、馬で逃走します。ここでは「列車」が社会秩序を、「馬」が自由を象徴しています。最終的にはその「馬」すら捨てて逃げるわけですが、そこで失った自由を取り戻すべくボリビアまで逃れていきます。しかしボリビア行きでは列車や汽船を利用せざるを得ず、彼らの「社会」に対する敗北はここですでに決定されていたともいえます。


また、『ワイルドバンチ』もそうです。

ディレクターズカット ワイルドバンチ 特別版 [DVD]

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主人公のウイリアムホールデンたちは、メキシコ政府軍のマパッチ将軍に雇われて列車強盗をしますが、将軍はすでに自動車を所有しており、馬に乗った強盗団はすでに時代遅れの存在であることが示されています。


現代の日本は、二十年以上続く不況によって雇用破壊が進んでおり、多くの若者が閉塞感を持ちながら生きています。そんな彼らが、ホーボーの自由な精神に憧れて無賃乗車を決め込もうとした可能性はけっこう高いと思いますね。『北国の帝王』は観てなくても、スタインベックの『二十日鼠と人間』とかケルアックの『オン・ザ・ロード』ぐらいは読んでてもおかしくないでしょう。

二十日鼠と人間 (新潮文庫 ス 4-1)

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オン・ザ・ロード (河出文庫)

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犯罪があると、よくアニメや漫画の影響がうんぬんされますが、こういう文学や映画の影響だって無視しちゃいけないと思いますね。