スコットの巡礼

さて『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』ですけど。

エドガー・ライト監督は『ショーン・オブ・ザ・デッド』でゾンビ映画に、『ホット・ファズ』で刑事アクション映画にオマージュを捧げてきましたが、今回はゲーム的演出がテーマになっています。
ショーン・オブ・ザ・デッド [DVD]

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これまでは「映画」というくくりの中でジャンルものの面白さをカリカチュアライズしてきたライト監督ですが、ゲームという映画外のジャンルに挑戦して、みごとに成功しています。原作漫画では賛否両論あるこの手法ですが(ちなみにぼくは未読)、音と動きのある映画では、ゲームの世界を再現しやすかったようです。アニメ化でなくあえて実写でやるあたりのチャレンジ精神も好感が持てます。


主人公のスコット・ピルグリムマイケル・セラ)は、バンドをやりつつ女子高生と中途半端な付き合いをしたり、バンド仲間の女の子ともかつてデートしたことがあったり、有名バンドの女性シンガーともかつて付き合ってフラれたりと冴えない日々を過ごしています。バンドも中途半端、女性関係も中途半端、実家の目の前にゲイのルームメイトと同居していたりと自立も中途半端。そんなスコットでしたが、運命の女性ラモーナ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)と出会ったことで人生の転機を迎えるわけです。


それまでの女性関係では、相手を深く理解しようとしていなかったであろうスコットですが、ラモーナとの出会いで初めて、相手とまっすぐに向き合って深く付き合おうとします。そこでラモーナの邪悪な元カレ軍団と戦う羽目になりますが、これは心理的には多くの男性が経験していることだと思います。好きな相手の過去に何があろうと、それを丸ごと受け止めることが、大人の男なら必要です。戦いをゲームとして演出しているのも、リアルなことではなく象徴的な出来事として描いているのではないかなぁと思いました。


演出にはケレン味がたっぷり溢れていますが、ドラマは正統的な青春の通過儀礼ものになっています。主人公の名前がピルグリム(巡礼)なのも、大人になるための旅を象徴しているんでしょうね。いちど死んで「1up」でよみがえるあたりも、ゲーム感覚というよりは、イニシエーションとしての擬似的な死と受け取ることもできそうです。エドガー・ライト監督は、『ショーン・オブ・ザ・デッド』でも『ホット・ファズ』でも、ぶっ飛んだ演出の中にしっかりとしたドラマを入れてきた作家ですが、本作もその例にもれず、遊びはたくさん入ってますが(オープニングのユニバーサル・ピクチャーズのロゴがドット絵になってたり、『ゼルダの伝説』などのSEが入ったり、バンド仲間の役名が「スティーヴン・スティルス」と「ヤング・ニール」だったり)青春のほろ苦さとロックンロールの爽快さが描かれた、骨格のしっかりした作品だと思います。

デジャ・ヴ

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あと、今回は女性陣がみんなキュートでよかったです。ヒロインのメアリー・エリザベス・ウィンステッドのみならず、中国系女子高生のエレン・ウォンや、バンド仲間のアリソン・ピル、スコットの妹のアナ・ケンドリックもたいへん魅力的に描かれています。ただ、エレン・ウォンの役名が「ナイヴズ」なので、どうしても『トライガン』を思い出してしまうのはやむを得ないところです。

TRIGUN MAXIMUM Nー7 (ヤングキングコミックスNEO)

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マイケル・セラが七人の元カレ軍団でなく、十二人のGUNG-HO-GUNSと戦う映画だったら壮絶な内容になるだろうなぁ。