「正統派ヒーロー」とその向こう側:『キック・アス』
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ヴァッシュの宿敵で双子の兄であるナイヴズは、腹心の部下レガート・ブルーサマーズに「ヴァッシュに最高の苦しみを与える」ことを命じる。ナイヴズの忠実なしもべであるレガートは、ヴァッシュに自分を憎ませて殺させるように仕向け、その不殺の誓いを破らせることで彼を苦しめるのだ。
この、ヴァッシュとレガートの関係は、アメコミでいうバットマンとジョーカーの関係に似ている。
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というわけで、仙台でもやっと公開になった『キック・アス』である。
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そんなキック・アスは、ヒーロー活動を続ける中でビッグ・ダディとヒット・ガール父子に出会う。「復讐」という強いモチベーションを持った彼らは銃やナイフ、薙刀などで完全武装し、躊躇することなくマフィアを殺害していく。命乞いする者も、女も、構わず殺す。小学生の女子が嬉々として殺人に興じる姿は、痛快であると同時にきわめてショッキングだ。キック・アスは「彼らは本物だ」と恐怖するが、ヴィランでもないただの犯罪者を私怨によって殺害する父子は、コミック・ヒーローとしてはかなりの異端である。『パニッシャー』がいちばん近いだろうか。
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『キック・アス』は、コミックス・コードに縛られていた古典的ヒーローが、緩和以後のモダン・ヒーローと出会う話でもあったのである。
※以下ネタバレ
後半になると、マフィア殺し(ビッグ・ダディ父子によるもの)の嫌疑をかけられ、キック・アスはマフィアに追われる身となる。美人の彼女もできてヒーロー活動をする意義のなくなったデイヴは引退を決意するが、マフィアのボス父子の罠にかかり、ビッグ・ダディともども捕らえられる。そして、その処刑の様子をネットで生中継されるのだ。ここはいかにも現代的な場面だが、同時に、敵であるマフィアからも「単なる営利目的の犯罪者」という立場を剥奪し、ジョーカーのようなヴィランに近づけるための演出だ。
ビッグ・ダディは殺されるが、キック・アスは間一髪でヒット・ガールに助けられる。そして、命拾いしたデイヴは復讐など考えずに市民生活へと復帰しようとするが、ヒット・ガールにはそんな選択肢は存在しない。彼女は父親によって殺人英才教育を施され、完全に洗脳されているので、復帰するべき市民生活がそもそもないのだ。
そんな彼女の姿を見て、デイヴも決断する。マフィアの本部に単身で乗り込んだヒット・ガール(BGMは『夕陽のガンマン』!)を援護するため、ガトリング銃と背負い式ロケット飛行装置で武装し、マフィアを蜂の巣にするのである。
遊びでヒーローをやっていた主人公が、恩人の死をきっかけに真のヒーローとなる、という展開は『スパイダーマン』にもみられる。
しかし、デイヴの決断は殺人というルビコン川を渡ることである。もう後戻りはできない。しかも、バズーカで木っ端微塵に吹っ飛ばしたマフィアのボスは、やっとできたヒーローとしての友だちであるレッド・ミストの父親でもあるのだ。
敵を全滅させ、デイヴとヒット・ガールことミンディは戦いの日々から解放される。学校にも戻って平和な生活を送るデイヴに葛藤は見られないが、彼はすでに一般人でないどころか、正統派ヒーローからも逸脱したダーク・ヒーローなのだ。
そして、ボスの息子であるレッド・ミストが、キック・アスへの復讐を誓ってこの映画は終わる。実はこれも、サム・ライミの『スパイダーマン』と共通している。グリーン・ゴブリンことノーマンの死は自滅であって直接スパイダーマンに殺されたわけではないのだが、彼の息子でスパイダーマンことピーター・パーカーの親友であるハリーは、スパイダーマンへの復讐を誓うのだ。
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悪との戦いに「恩人の復讐」という強烈なモチベーションを得ることで、キック・アスは正統派のアメリカン・コミック・ヒーローに一歩近づくのだが、殺人によって「正統派ヒーロー」をさらにもう一歩踏み越えてしまうのである。しかし結末でその異端性を無視し、正統派ヒーローのフォーマットに回帰するあたりは、イギリス人であるマシュー・ヴォーン監督なりの皮肉なのかもしれない。
血みどろのバイオレンス描写と、人を喰ったユーモアが同居する『キック・アス』には、ヒーローのあり方に対する現代的な考察が加わっている。まさに『ダークナイト』と並んでゼロ年代を代表する(制作・本国公開は2009年)映画だといえるであろう。
あと、個人的に印象深かったのが、デイヴの彼女ケイティの友だちで、デイヴのオタ友(メガネ・小太り)の彼女になってしまうエリカの存在だ。ストーリーにはとくに関わってこないのだが、演じているのはソフィー・ウーという女優。名前からすると中国系らしいのだが、これが仲里依紗そっくりなのである。
(↑ウーさん)
(↑仲さん)
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