天使の絵の具

早いもので今年ももう師走です。12月ともなると、世間ではクリスマス一色。例によって「クリスマス中止のお知らせ」とか言い出す人たちもいますが、ぼくぐらいの中年になるともうそんな戯言に惑わされることもなく、静かに子どもの頃の思い出にひたったりする、そんな季節です。


あれはたしか、ぼくが小学二年のころだから、もう27年も前のことになりますか。


すでにサンタクロースなど信じない子どもだったぼくが、両親にクリスマスプレゼントとしてねだったのは、人気絶頂だった『超時空要塞マクロス』の主役メカ、バルキリーの可変玩具でした。

VF HI-METAL VF-1J バルキリー(一条輝機)

VF HI-METAL VF-1J バルキリー(一条輝機)

優美でスタイリッシュなフォルム、F-14トムキャットによく似たリアルな戦闘機がロボットに変形するギミック、ロボットと戦闘機の中間にあたるガウォーク形態の斬新さ。どれをとっても、それ以前のメカたちが持つ武骨さとは一味ちがっていて、当時の子どもたちを熱狂させたものです。小学校低学年の男児にとっては、輝―ミンメイ―未紗の三角関係や、文化とのファーストコンタクトというSFテーマ、ミンメイのアイドル歌謡などは趣向の範囲以外で、とにかくバルキリーのカッコよさと、ミサイルが糸を引く板野サーカスが魅力のすべてでした。


で、そのバルキリーの変形ギミックを完全に再現した、タカトクトイスの1/55モデルは、当時の価格で5000円ぐらいしたかなり高価な玩具で、小学校低学年の子どもにはなかなか買ってもらえませんでした。ぼくも両親にずいぶんねだったのですが、とうとうクリスマスまで買ってもらえず、それまでは安価なソフビで(もちろん変形機能はない)遊んでいたものです。


そして、待ちに待ったクリスマスがやってまいりました。


鶏の腿焼きやケーキには目もくれず、父から手渡されたプレゼントのラッピングをもどかしく解くと、そこにはあこがれの完全変形バルキリーが……


ありました。たしかにそこにあったのは、タカトクの完全変形バルキリーです。


しかし、その前年ごろまでぼくは『機動戦士ガンダム』に夢中で、とりわけ赤い彗星のシャアに心酔していたのを、父も記憶していたのでしょう。父は「息子は赤いロボットが好きだ」と思っていたらしく、その年のクリスマスに買ってきたのは、バルキリーバルキリーでもミリア・ファリーナ専用機だったのです。

ジェンダーにとらわれている小学生男児にとって、「女の乗るロボット」はとても魅力的とはいえず、せっかく買ってくれた父の前でも、ぼくは落胆を隠すことはできませんでした。


翌年には、劇場版『愛・おぼえていますか』が公開され、ぼくの心酔対象はシャア大佐からフォッカー少佐へと完全に移行します。両親にせがんで、フォッカー少佐モデルのバルキリーを買ってもらったのは言うまでもありません。

VF HI-METAL VF-1S ストライクバルキリー (ロイ・フォッカー機)

VF HI-METAL VF-1S ストライクバルキリー (ロイ・フォッカー機)


今は、バルキリーバンダイはじめ各ホビーメーカーから発売されています。かつてのタカトク製モデルは、ダイキャスト部品がヘタりやすく、今になって見るとフォルムの再現度にも問題がありましたが、現行の商品はそれらの問題もクリアされていて、顧客の年齢層とともに価格もさらに上昇して、店頭に並んでいます。そういえば、『マクロス』の時代設定は2009年〜2010年だったんだよなぁ。そんな2010年ももうすぐ終わりですよええ。