オナンの末裔
クエンティン・タランティーノ監督の映画『イングロリアス・バスターズ』は、英語題だと"Inglourious Basterds"という間違ったつづりになっています。
元ネタになった、エンツォ・G・カステラッリの『地獄のバスターズ』は"Inglorious Bastards"という正しいつづりでした。これを敢えて間違ったものに変えたのは「主人公であるアルド・レイン中尉がそういう書き方をする粗野な人物だからだ」と監督は言っていますが、私生児を意味する"Bastard"が差別的で好ましくない言葉だから、という理由もあるものと思われます。タランティーノは絶対そう言わないだろうけど。タランティーノですらそういう配慮をする現代ですが、日本の法務省は、嫡出子と非嫡出子の差別をどうしても温存しておきたいらしいです。
http://www.asahi.com/national/update/0109/OSK201001090155.html
性別変えた夫の子、妻出産でも婚外子扱い 法務省見解
心と体の性別が一致しない性同一性障害との診断を受け、女性から男性に戸籍上の性別を変更した夫が、第三者の精子を使って妻との間に人工授精でもうけた子を、法務省は「嫡出子(ちゃくしゅつし)とは認めない」との見解を示した。全国で6件の出産例を把握、非嫡出子(婚外子)として届けるよう指示した。だが、同じ人工授精でも夫が生来の男性の場合は嫡出子として受理しており、「法の下の平等に反する」との指摘が出ている。
性同一性障害者が自ら望む性別を選べるよう、2004年に施行された特例法に基づき、兵庫県宍粟(しそう)市在住の自営業Aさん(27)が戸籍を「女」から「男」に変更したのは08年3月。翌月、妻(28)と結婚した。男性としての生殖能力はないため実弟から精子提供を受け、妻が体内受精で昨年11月に男児を出産した。
市役所に「嫡出子」として出生届を出そうとしたところ、宍粟市はAさんの性別変更を理由に受理を保留。法務省の判断を受け、今月12日までに「非嫡出子」と書き改めて届け出るよう、昨年末にAさんに通知した。嫡出子は、法律上の婚姻関係にある夫婦から生まれた子。非嫡出子となれば、戸籍に父親の名は記載されない。
嫡出子と認めない理由について、法務省は朝日新聞の取材に「特例法は生物学的な性まで変更するものではなく、生物学的な親子関係の形成まで想定していない」と文書で回答。出生届を出す窓口で、戸籍から元は女性だったとわかるため、「遺伝的な父子関係がないのは明らか」(民事1課)と説明している。
ひでえ話ですね。コレいったい誰が得するんだよ。窓口で「コレはおかしいと思いますうー」とか発見した、ご優秀な木っ端役人さまに特別ボーナスでもくれてやるのか?
あくまで、「生まれついての男と女が結婚して子どもを産む。それ以外の人生は認めません! ドン!」といいたいんでしょうけど、どうしてそこにこだわる必要があるんだろう。少子化ヤバイ少子化ヤバイと言っておいて、あくまで改善する気はありません! あんたたちの責任でなんとかしなさい! ってのは通じないと思うけどなぁ。
ところで。
旧約聖書「創世記」には、オナンのエピソードが登場します。
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しかし、子が生まれた場合、家督はその子のものとなり、自分が家長になれないことを嫌ったオナンは、子ができないよう、兄嫁と性交する際は常に膣外射精していました。これが神の怒りを買い、兄と同様に殺されてしまいます。
そして、ユダはタマルを呪われた女だと思い込み、三男シェラとは結婚させず、「シェラが成人するまで」という口実をもうけて実家へ返してしまいます。この仕打ちに対し、タマルは娼婦に化けて義父ユダに抱かれて双子パレスとザラを産み、パレスが家督を継ぎました。
これ、日本の家父長制で考えるとパレスは四男であり、家督は三男シェラが継ぐのが正統のように思えるのですが、ユダヤ人の家族制度では母親が重視されるようで、あくまでタマルの産んだ子が家督を継ぐことになっています。どうもこの辺は、文化の違いでよくわからないところですね。
今回の宍粟市の案件では、精子提供者が”夫”の弟でなく父親だったら、聖書の例にならって家督が認められてたんでしょうか。ってそれは根本から大きく間違っていますね。性別変更とまったく無関係な話になってるし。
のちに、オナンは自慰を意味する「オナニー」の語源となりました。
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ですが、実際にしていたのは膣外への射精であって、これが避妊にならないのは現代では常識ですね。
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