誰かのための虻

また、あなたとお会いしましたね。


今夜は『空気人形』。なんでしょうね、空気の入った人形。裸の女の人の形した、ダッチワイフいいますね。最近はラブドールなんて呼ぶこともあるそうですね。寂しい寂しい男の人が、性と心の慰めのために買いますね。


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で、この映画では、その人形が心を持ってしまうんですね。なんとも知れん、怖い怖い映画ですね。


昔から、ロボットとか人形とか、人造人間が心を持つ映画、いっぱいありますね。1910年(いっせんきゅうひゃくじゅうねん)に、『フランケンシュタイン』が初めて映画化されているんですね。これはあの、発明王エジソンの会社で作られてたんですね。それ以来ずっと、このテーマの映画は絶えることなく作られていますね。


「人形が心を持つ」映画、いっぱいありますけどだいたいどれでも、心を持ったものは、それで幸せにはならないんですね。心いうのは悲しいもの、そういうテーマがどの映画でも出てくるんですね。


今回の『空気人形』も、心を持った人形の悲しさを描いていますね。監督は是枝裕和、『ワンダフルライフ』とか『誰も知らない』いう映画で有名な人ですね。


心を持つ人形は、韓国のペ・ドゥナが演じていますね。『グエムル』ではジャージ姿でアーチェリー撃っとりましたが、この『空気人形』では、まぁ恥ずかしい。おっぱい丸出し、全裸で登場するんですね。こんな美女が家でおっぱい丸出しにしておるわけですから、まぁ男いうのはなんとも知れん、しょうがないものですね。板尾創路がその持ち主なんですが、毎晩この子を抱いて寝とるんですね。


でもペ・ドゥナ演じる人形は、心を持ちましたら、持ち主の家を出て外の世界に行くんですね。そこでいろんな人に会いますね。孤独なベテランOLの余貴美子やら、孤独なおじいちゃんの高橋昌也やら、孤独なおばあちゃんの富司純子やら。みんな孤独な人ばっかりですね。この映画は「からっぽな人間」を描くのが主眼で、中に空気の入っとる人形は、孤独な人間が持つからっぽさを象徴しておるんですね。


そんで人形は、レンタルビデオ屋さんでアルバイトはじめますね。そこで知り合ったARATAに、人形は恋をするんですね。でも夜には家に帰って、持ち主の板尾に抱かれなくてはいかんのですね。なんとも知れん、悲しい悲しいお話ですね。


ペ・ドゥナがたどたどしい日本語で、吉野弘いう詩人の「生命は」いう詩を朗読する場面もありますね。

吉野弘詩集 (ハルキ文庫)

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生命いうのは、自分だけでは完結できないもんなんですね。人は人と関わることによって、はじめて人間になれるいうことですね。孤独な人たちと触れ合うことで、はじめはいかにも人形らしい動きだったペ・ドゥナが、だんだん人間らしくなっていきますね。この監督の作品は、やっぱり一通りや二通りやない、見事な感覚を出しますね。



で、問題なのがラストですね。くわしくは書きませんけど、なんとも知れん、怖い怖い場面が出てきますね。私、こんな映画だと思ってませんでしたからね。『A.I.』みたいな話かと思っとったら、アイはアイでも『愛のコリーダ』だったんですね。

A.I. [DVD]

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この映画を観ておりますと、1917年(いっせんきゅうひゃくじゅうしちねん)に『人間タンク』いう、怖い怖い連続活劇映画ありましたね、それ思い出しますね。



では、またお会いしましょうね。