21世紀の説教強盗
大阪で、被害者に「防犯の心得」を説教していたという強盗が、逮捕されたそうです。
http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp0-20090930-549766.html
強盗が「無用心や」と1人暮らし女性説教
大阪府警捜査1課と東淀川署は29日、民家に侵入し現金を奪ったとして、大阪市東淀川区の自称自営業田中仁容疑者(35)を強盗と窃盗の疑いで逮捕した。同容疑者は1人住まいの無職女性(62)宅に侵入し「放火犯もおるし、気をつけや」などと約25分にわたり、説教していた。被害にあった女性はこの日、日刊スポーツの取材に事件当日の様子を語った。
同容疑者は、10日午前2時半ごろ、無施錠の2階ベランダから侵入。1階で寝ていた女性にナイフを見せ「騒ぐな。静かにしてたら何もせえへん。カード、印鑑、通帳を出してくれるか」と脅迫。現金約4000円とキャッシュカード2枚を奪い、暗証番号を聞き出すと「これ、誕生日か? すぐばれるからあかんで」と言ったという。
さらに「侵入防止のため、ベランダには何かを立て掛けておいた方がいい」とも。その後「のどが渇いた」とお茶を要求した。帰り際には、玄関扉の横にあるガラスを指さし、「ここを割ったら簡単に鍵を開けられる。内側から金網を張ったらいい」と話し、出ていったという。女性にけがはなかった。
同日午前9時半ごろ、同容疑者は近くのコンビニで、女性から奪ったキャッシュカードで現金3万円を引き出した。この姿が防犯カメラに写っていたことから逮捕につながった。「間違いありません」と容疑を認めている。
「最初は怖かったが、防犯講習みたいだった」という女性は、サスペンスドラマ好き。同容疑者が手袋を付けて飲んだコップをポリ袋に入れ「唇の跡で犯人が分かるのでは」と、近くの交番に届け出たという。事件後には約10万円かけ、2階はすべて防犯ガラスに、玄関横のガラスには内側から金網を張り付けた。
府警などによると、同区内では7月以降、高齢者宅で現金が奪われる事件が2件あり、関連を捜査している。犯人は女性の被害者に「用心のために男物のパンツを干しておけ」などと話したという。
「説教強盗」といえば、日本事件史に名高い妻木松吉がすぐに思い浮かぶところです。
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大正15年から昭和4年ごろに、都内で58件の強盗、29件の窃盗、2件の強盗傷害事件を起こした左官工の妻木松吉は、深夜に家に侵入し、目を覚ました家人にナイフをつきつけて「もしもし、お金をいただけませんか」と丁寧な言葉遣いで金を要求するという風変わりな手口で知られました。
金を要求する際は、「この家は暗すぎる、これでは強盗に入られやすいですよ」「犬をお飼いなさい」「ガラス戸はいけません。鉄格子をお入れになったほうがいいです」などと防犯の心得を説き、夜が明けるころに去るというから、不敵です。この強盗に、当時朝日新聞の記者だった三角寛が「説教強盗」というキャッチフレーズをつけ、模倣犯も出る騒ぎとなりました。
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松吉が説教をしていたのは、目立つ深夜の逃亡を避けるために夜明けまで時間をかせいでいたのと、被害者に「自分にも落ち度があった」と自覚させて警察への通報を遅らせるためだったといいます。
このように松吉の犯行は周到かつ細心で、「盗品は換金しない」「侵入する家の飼い犬にはあらかじめ餌を与え手なずけておく」「派手な金遣いはしない」など、さまざまな注意を払っていました。
それに比べて今回の容疑者は、偉そうに説教していたくせに盗んだカードで金を引き出すという間抜けな行動をとっていますね。そんなん一発でアシがつくに決まってんだろ! いまどきどこのATMにも防犯カメラぐらいついてるって!
妻木松吉は無期懲役の判決を受け、秋田刑務所ではまれに見る模範囚として服役していましたが、昭和23年に新憲法公布に伴う恩赦を受けて出獄。以前侵入した家が空襲で焼けているのにショックを受けたり、内海桂子と組んで全国巡業したりして、平成元年に87歳で死去しました。
(昔は、このように「世間を騒がせた犯罪者が出獄後に事件をネタにして巡業する」という芸能の形態があった。阿部定も事件を舞台化して自分自身を演じていたことがある)
今回の容疑者にも、しっかり罪をつぐなって更生してもらいたいものです。