KOコンピューター

映画「ロッキー・ザ・ファイナル」が昨日から公開されていますので、今日はロッキーのモデルといわれるチャック・ウェプナーについて。


http://wepner.homestead.com/


チャック・ウェプナーは、1975年にモハメド・アリと戦ったボクサー。


当時、宿敵ジョージ・フォアマンを倒して一息つきたかったアリは、対戦相手に無名のウェプナーを指名。かませ犬と楽な試合をして、防衛期限を稼ぐためだけの試合だったと思われます。


しかし、ボクシングだけでは生活できずに酒屋で働きながらリングに上がっていたウェプナーはこの降って沸いたチャンスに発奮。彼を舐め切っていた、調整不足で動きの鈍い”ザ・グレイテスト”アリからダウンを奪うという健闘を見せます。

ダウンを奪われて本気になったアリは、それまでジャブだけであしらっていたウェプナーにコンビネーションを浴びせはじめ、最終15ラウンド、残り19秒というところでついにノックアウトしたのでした。



この試合に感動した、売れない俳優だったシルベスター・スタローンは、「ロッキー」の脚本を書き上げて自ら主演し、大スターの座に着きました。

詳しくはこの本を参照。




で。




一躍有名になったウェプナーは、その後プロレスラーとの異種格闘技戦に挑戦。


アントニオ猪木モハメド・アリが戦った1976年6月26日、同日にウェプナーはニューヨークでアンドレ・ザ・ジャイアントと対戦し、リングアウト負けを喫します。

翌年には、日本武道館で猪木と戦い、延髄斬りからの逆エビ固めという、現在のMMAでは考えられないような技でギブアップ負けを喫しました。


このため、ウェプナーはプロレスファンにも良く知られています。




今回の「ロッキー・ザ・ファイナル」は、60歳のロッキー・バルボアがカムバックするという話です。


実は、モデルになったウェプナーも、57歳にしてUFCのオファーを受けた、と話していたことがありました。

1995年9月。

ニュージャージー州で開かれた、プロレスラーOB会「カリフラワー・アレイ・クラブ」総会に、表彰選手として参加したウェプナー。


パーティの席上で、隣り合った流智美氏に、

来年(1996年)早々、たぶんアルティメット・ファイトに出ることになると思うよ。

来週、プロモーター側の人間と会う予定なんだ。こう見えても、俺は現役だからね!


という爆弾発言をします。


提示されていたギャラは5万ドル、とのこと。
これは、猪木やアンドレとの異種格闘技戦のギャラと同額だそうです。


「猪木とアンドレ、どちらが戦っていて怖かったですか?」


という流氏の質問には、

アンドレはただデカいだけだったが、イノキは何をするのかわからない男だった。
プロレスラーというより、ジュウジュツ(柔術)マスターという印象だな。


ラウンドハウス・キック(延髄斬り)には参ったよ。
飛んできた右足をかわしたと思ったら、左足で後頭部を蹴られてKOされてしまった。

敵ながら見事な技だったね。


今度アルティメット大会に出場することになったら、ぜひトレーニングの段階でイノキにスパーリング・パートナーになってほしいものだね。


と、途方もないことを言っています。


この人、1986年にはコカイン所持で逮捕されたこともあったのですが、ちょっと心配になる発言ですね。




流智美氏は、

五十七歳の元世界ランキングボクサーという名前だけでオクタゴンに送り出すとは、
やはりアルティメット大会の主催者が提供しているのは
”単なる金儲けのための残酷ショー”
と判断せざるを得ない。

と書いておられました。


当時、NHBにおける戦い方はまだ洗練されておらず、UFCに出場する選手のレベルも必ずしも高くなかったため、プロレスファンの多くがこのような意見を持っていたものでした。


もちろん、実際にウェプナーがオクタゴンに登場することはなく、現在ではUFCもそれなりに権威のあるものになっています。


5万ドルを稼ぎ損なったウェプナーは、2003年にはスタローンを相手取って「モデル料を払え」と訴訟を起こしましたが、2006年には和解。今回の映画も無事作られることとなりました。




ちなみに。



今回の映画では、現役ヘビー級チャンピオン、ディクソン(アントニオ・ターヴァー)と全盛期のロッキーが戦ったらどうなるか、というコンピューターシミュレーションが行われたことから、ロッキーはターヴァーとのエキシビジョンマッチに挑みます。


実はこれにもアリ絡みの元ネタがあって、1969年、当時全盛期だったモハメド・アリと、1955年に無敗のまま引退した伝説のチャンピオン、ロッキー・マルシアノを仮想対戦させるという試みが行われました。


1969年当時のコンピューターでどんなシミュレーションが行われたのか、あまり想像したくありませんが、結果として「マルシアノのKO勝ち」がはじき出されました。


この結果を聞かされたアリは、

あのコンピューターは、人種差別の盛んなアラバマ州製だからな。

と皮肉たっぷりに答えた、といいます。

ノックアウトキング2002 (Playstation2)

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