鮮血の美学

新・13日の金曜日 [DVD]

新・13日の金曜日 [DVD]

(↑実はシリーズ中でコレがいちばん好きです)
今日は13日の金曜日ですので、毎回恒例*1スプラッター・カーニバル」を開催します。


映画史元年は、一般に1895年とされています。

これより前に、エジソンがキネトスコープを発明してはいましたが、これは一人用で覗き込むシステムでしたので、リュミエール兄弟がスクリーンに映写するシネマトグラフを発明した1895年を映画史元年とするのが普通です。


で、1895年にはすでに「スコットランド女王メアリの処刑」という短編映画(というか当時は短編しかない)が公開されて話題になりました。

ジョジョの奇妙な冒険」第一部でおなじみ*2の女王メアリー・スチュアートがギロチンで処刑される姿を描いたこの作品は、ギロチンの刃が落下すると女王の首がゴロリと落ちるというだけの内容でしたが、当時としてはかなりショッキングなものでした。

これを史上初のスプラッター映画としてまず問題ないでしょう。
つまり、映画とはその創成期からスプラッターとともにあるわけです。

イントレランス [DVD]

イントレランス [DVD]

また、1919年に公開された超大作であるこの「イントレランス」には、刀で人の首をスパスパと斬っていくシーンがあります。
映画史に燦然と輝くこの名作は、スプラッターの歴史にも燦然と輝いているのであります。


1928年には、サルバドール・ダリルイス・ブニュエルシュールレアリズム映像詩といえる短編作品「アンダルシアの犬」を製作しています。

アンダルシアの犬 [DVD]

アンダルシアの犬 [DVD]

剃刀で眼球をスパッと斬るシーンは、今の感覚でもかなりショッキングです。

サンゲリア」や「ゾンゲリア」といった、「目ん玉ぶっすー映画」の元祖といえるでしょうね。

サンゲリア 25th ANNIVERSARY SPECIAL EDITION [DVD]

サンゲリア 25th ANNIVERSARY SPECIAL EDITION [DVD]

ゾンゲリア [DVD]

ゾンゲリア [DVD]


ですが。



これらの映画では、首がスパッと斬れても血が一滴も出ませんでした。

血が出る映画の元祖といえば、1962年に黒澤明監督が撮った「椿三十郎」がその嚆矢といわれております。

椿三十郎 [DVD]

椿三十郎 [DVD]

ラストの三船敏郎仲代達矢の対決で、斬られた仲代の体から血が噴き出すシーンはあまりにも有名ですね。
ポンプの操作ミスによって予想以上に血が出てしまった、というハプニング性も、よく知られているところであります。

アメリカでは、次の年の1963年にハーシェル・ゴードン・ルイスが「血の祝祭日」を撮り、はじめて内臓をカラーでババーンとスクリーンに映し出しました。

血の祝祭日 [DVD]

血の祝祭日 [DVD]

この監督の作品はスプラッターの元祖としてよく知られていますが、ハッキリ言ってムチャクチャつまんないです。

演技も演出も編集もまったくのシロウト、特殊メイクは稚拙、ストーリーはガタガタ、という、歴史的意義以外にはまったく観るべきもののない作品ですね。


これらの作品は、ハリウッドとは無縁のインディーズ映画です。
当時のハリウッドは、1930年代に制定されたヘイズ・コードに縛られており、撃たれたり斬られたりしても出血する描写ができませんでした。

これが撤廃され、ハリウッド映画ではじめて血が吹き出る描写をしたのが、1968年の「俺たちに明日はない」です。

俺たちに明日はない [DVD]

俺たちに明日はない [DVD]

この作品から「アメリカン・ニューシネマ」というムーヴメントが生まれていった、ということはこの本に詳しく載っています。

80年代になるとスプラッターは次々に量産されていき、日本でも当時黎明期にあったレンタルビデオ界をにぎわせることになりました。


うんざりするほど出た作品の中で、とくにわたしのお気に入りなのがコレ。

最低映画館〜バーニング(THE BURNING)
今調べてみたら、DVD化されてなかったんですね。

この作品は、キャンプ場で謎の怪人がおバカな若者たちを血祭りにあげていく…という、あきらかに「13金」をパクったストーリーですが、演出が手堅いのでけっこう楽しめます。


音楽はなぜかリック・ウェイクマン

危機

危機

なんかのコネがあったんでしょうか。

この作品、日本では殺人鬼に「バンボロ」という名前を勝手につけて*3、「全米で殺人行脚を続ける殺人鬼」として宣伝したのですが、実際の劇中では殺人鬼には「クロプシー」という名前があり、最後までその名前しか呼ばれないというインチキ宣伝が今でも語り草になっています。

70年代映画懐かし地獄―あの頃映画は爆発だった! (映画秘宝コレクション21)

70年代映画懐かし地獄―あの頃映画は爆発だった! (映画秘宝コレクション21)

この本に詳しく載ってますが、東宝東和ってつくづく偉大ですねぇ。

*1:いつからそうなったんだ。

*2:タルカスとブラフォードがウソだと気付くまで何年もかかりました。

*3:響きだけでつけられた、まったく意味の無い名前である。