Grateful When You’re Dead

書籍の自炊代行ビジネスについて、出版社や作家が起こした行動が話題になっています。


まずは、漫画家の佐藤秀峰氏によるこちらの記事をご覧下さい。経緯がよくまとまっており、佐藤氏の意見もわかりやすく書かれています。
http://mangaonweb.com/creatorDiarypage.do?p=1&cn=1&dn=32817&md=1


ビジネスとして本を裁断・スキャンして電子データ化する行為について、これが著作権法で認められる複製権の範疇におさまるかどうかは意見の分かれるところです。この記事では、反対している作家の名前が多く挙げられていて、かなり多くの作家が、自炊代行ビジネスは著作者の権利を脅かすものと考えていることがわかります。それに対し、佐藤氏は「読者が買った本をどうしようと作家は文句を言えない」という反対意見を持っています。ちなみに、ぼくはここで名前の挙がっている122人の作家・漫画家のうち、小説家講座でお世話になった作家が10人もいるので、ここでこの意見の是非を言える立場にはないことをひとこと付け加えておきます。


んで、話題のエントリに噛み付いては不人気な自著のアフィを貼るという、不毛な作業を繰り返しているハックルのおっさんが、ここにもイッチョカミしてきました。


http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20111225/1324797973
この記事はBLOGOSにも転載されているのですが、そちらではアフィリエイトが削除されているのでなんとも物悲しいです。


ここでハックルが主張しているのは、

  • 本は読者の所有物ではなく、土と水と太陽からの借り物にすぎない
  • 本の使い道は読者の勝手ではなく、作者が指図すべきものである

という、なかなか斬新な考え方です。佐藤氏や原告の作家陣は法律上の著作権や所有権について話しているのに、いきなりスピリチュアルな視点を持ち込まれるので、混乱以外の何ものも生み出しません。「言葉も先人からの借り物である」とか言ってますが、そんなこと言ってたらまず自分の本の印税を放棄しなくちゃいけなくなりそうですけどね。


もはやどんな電波系発言をしても、はてな村では「( ´_ゝ`) フーン」で済まされるハックルですが、BLOGOSという村外の世界に出たことがまずかったのでしょうか、佐藤氏本人から反論されました。


http://mangaonweb.com/creatorDiarypage.do?cn=1&dn=32844


わはははは、こりゃ容赦ねえ。「佐藤さんはもう本を読まないほうがいいと思います」と言った直後に自著を読むようにすすめる、厚顔無恥な支離滅裂さとかもうメッタ斬りにされてますね。もう炎上マーケティングも通用しないんですね、この人。


それにしても、ハックルは「読者には誤読する権利はなく、著者の意図どおりに楽しまなければいけない」という持論を持っているようですが、それなら誤読される心配のないかっちりした作品を書かなければ。前にこの人は、『もしドラ』のストーリーが不自然だと批判した読者に「あれはこういう意味なのだ」とお説教で返したことがありましたが、作家としてかなりみっともないと思いましたね。読み取れない意味なんてないのと同じ、いや無意味よりタチが悪いんですけどね。


では、ハックルの意図した「『もしドラ』の楽しみ方」とはなんなんでしょうか。「こんな本を書いた人は素晴らしい!」と賞賛して自分の信者になり、高額なセミナーに参加することだけがハックルの意図なのか、と簡単に考えていましたが、この人の持つ自己承認欲求はそんなちっぽけな枠にはとどまらないのではないか、そう思わせる鍵になるであろうエントリが、先ほどの前の記事で見つかりました。


http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20111220/1324364451
もしドラ』は読むためのものではなく、贈るための贈答品である! それがハックルの意図した楽しみ方なんだそうです。一人で複数買いして、他人に贈ることが『もしドラ』の存在意義だというから、まるで『リング』における呪いのビデオみたいな話ですね。作中で主人公の親友は病死しますが、あれは貞子だったのか……

リング (角川ホラー文庫)

リング (角川ホラー文庫)

それにしても、こちらのエントリも「俺の本を買って俺を称えろ」以外は何が言いたいのかまったく意味不明で、作家としての資質を疑わずにはいられないですね。まぁハックルの記事は全部そうなんですけど。読むためでなく買って他人に薦めるための本、なんてものは『もしドラ』以前にもいくらでもあったでしょう。宗教団体が布教のために出版する本なんて、多数買いが当たり前です。「一人で百冊買った人がいた」というのがたいそう自慢なようですが、そんなリクツだったら日本一の作家は大川隆法になっちゃうよ。
グレイトフル・デッドが40年前に他のバンドと正反対のイメージ戦略を打ち出したように、自分も他の作家と正反対に、読者に自分の意図を押し付ける作家になりたいというそのリクツも意味がわからない。グレイトフル・デッドというバンドの価値は、デッド・ヘッズと呼ばれる熱狂的ファンたちがいっしょになってブランドイメージを作っていたんだから、ハックルの言ってることはデッドとは正反対なんですけど。書物の価値は読者ではなくその道の先生が決める、なんてのはイノベーションどころか近代とルネサンスをすっ飛ばして中世にまで遡る価値観の退行ですよ。


だいたい、グレイトフル・デッドが大したヒット曲もないのにライヴはいつも満員だったのは、会場に行けばありとあらゆるドラッグが手に入ったから、というのも忘れちゃいかんと思いますけどね!


ハックルによれば『もしドラ』は贈られるために存在していて、いま持っている人の所有物ではないそうですから、持っている人は早く人にあげて、貞子ならぬ病死したマネージャーの呪いから逃れるべきだと思いますね!