『恋の罪』…うーん……

園子温監督の『恋の罪』を観たんです。


前作『冷たい熱帯魚』、前々作『愛のむきだし』にはものすごい衝撃を受けた園監督作品ですが、今回は「何がしたいねん」という感じでした。


主人公は三人の女性です。
刑事の水野美紀は、夫と娘を持ち幸せな家庭を築いていながら、不倫相手との奴隷的セックス(主にテレホンセックス)に耽溺しています。
専業主婦の神楽坂恵は、売れっ子小説家である夫(津田寛治)の束縛に苦しみ、スーパーでのパートを経てAVに出演し、性的に奔放になりますが、その過程で街娼の冨樫真と出会います。
冨樫真は、昼の顔は大学の助教授でありながら、夜は街娼として、廃墟を根城に男をくわえ込んでいます。その彼女が、神楽坂恵に「セックスで金を得ることによって女としての自我が確立できる」と説いていくわけです。


んで、彼女たちのストーリーが、水野美紀パートと神楽坂・冨樫パートの二つに分かれて、時系列を変えてカットインされながら進んでいきます。
廃墟で女のバラバラ死体(マネキンと接合して二人分に見せている、島田荘司の『占星術殺人事件』みたいな見立て)が発見され、水野美紀がその捜査にあたるわけですが、これがまったく役に立ってないんですよ。やったことといえば、行方不明人のファイルをチラ見したのと、デリヘルを何軒か聞き込みしたのと、雨漏りのする現場でアンジャッシュ児島とテレホンセックスしただけ。んで水野美紀とはまったく関係なく死体の身元は割れ、水野美紀とはまったく関係なく事件は解決します。これ水野美紀いらなくね?実際、主人公のはずでありながら、水野美紀はまったく活躍することもなく、映画の始まりと終わりで何の人間的成長も変化も見せることなく終わってしまうんですよ。


この映画は実質的に、神楽坂恵冨樫真に誘惑され、堕落させられていく様を見せるのが主眼であって、本当に水野美紀の存在意義はないんですよね。こっちだけで話が成立しているので、水野美紀が無駄遣いされているようにしか見えませんでした。


神楽坂・冨樫パートでは、行きずりの男と遊びでセックスしていた神楽坂恵が、冨樫真に「愛のないセックスには金を介在させなきゃだめ」と説き、街娼の道へ引き込んでいくわけですが、AV出演の時点で金のためのセックスしてるやんとツッコミを入れずにはおれません。冨樫真は、『愛のむきだし』でいう安藤サクラ、『冷たい熱帯魚』におけるでんでんと同じく、主人公をそのエゴイズムに巻き込んで破滅へ導くメフィストフェレスであり、背負っているトラウマ(親との確執)やその最期もほぼ同じです。しかし、本作では冨樫がいなくとも神楽坂が性的にどんどん解放されていくのは明らかであり、要するにすべての人物関係に必然性が希薄なんですよね。

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街娼をやりながらデリヘルもやっている冨樫に誘われて、神楽坂恵もデリヘルに入ります。で、最初に行った客がたまたま夫の津田寛治で、冨樫真も何度も買ったことがある、というのはあまりにご都合主義がすぎるというか。冨樫真の本当の狙いは、妻とはセックスレス津田寛治が実は変態だ(首を絞められながらセックスすることで強い快楽を得て、創作の原動力にしている)というのを妻に見せつけてやることだったというのですが、あまりにも「?」が多すぎます。なぜ神楽坂恵津田寛治の妻だとわかったのか、なぜデリヘルを呼んだ客(その店では一見さんだった)がたまたま津田寛治だったのか、それらの疑問はまったく解決されることなく、冨樫は神楽坂に自分を殺すように迫ります。


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これはバットマンとジョーカーや、ヴァッシュ・ザ・スタンピードとレガート・ブルーサマーズなどの関係に見られるように、善なる人物を憎悪に染めて暗黒面に落とそうという誘惑なのですが、セックス以外に罪を犯していない人の業が殺人にまで飛躍するのはちょっとやりすぎだといいますか。
ここで、セックスを罪と考えている冨樫真のお母さんが乱入してきて、殺人と解体を実行するんです。どこから尾けてきたんだよ!デリヘルの事務所からラブホテルを経て廃墟まで来てるのに。


すっかり解放されきった神楽坂恵は、夫のもとを出奔して売春に精を出します。港町で、小学生男子の前で放尿したりもするのでちょっと解放されすぎな気もします。これは出演している小学生にショックを与えるんじゃないかなぁ。オレだったら一生モンのトラウマ確定ですよ。


ギャグとしては、神楽坂恵が性的に解放されていくごとに、スーパーで試食をすすめるソーセージが大きくなるぐらいで、全体的にユーモアはあまり感じませんでした。『冷たい熱帯魚』がどんな残酷シーンにもユーモアがあったのに比べ、今回は控えめです。そこがぼくに合わなかった点かもしれません。まぁ、神楽坂恵マーベラスなおっぱいはたっぷり拝めましたから、それでよしとするべきでしょう。おっぱいは全てに優先するのがぼくの主義です。