試みの地平線

擬態 (文春文庫)

擬態 (文春文庫)

本日は、山形市で開催された「北方謙三講演会」および「北方謙三大沢在昌トークショー」という催し物に行ってまいりました。


今回の文学イベントは「北方謙三、作家生活41年を語る」という副題がついていましたが、北方先生は1970年に「新潮」で純文学作家としてデビューするもののその後はまったく売れず、1981年の『弔鐘はるかなり』が実質デビュー作といってよく、実際の作家生活は30年だ、とおっしゃっていました。


その雌伏時代をともに過ごしたのが、中上健次立松和平だったそうで、ときには殴り合いながらも文学論を戦わせていたというからなんとも贅沢というか。

軽蔑 (角川文庫)

軽蔑 (角川文庫)

いい人生 (立松和平エッセイ集)

いい人生 (立松和平エッセイ集)

でも、立松和平の口ゲンカってあんまり想像できないなぁ(笑)


そして、まず中上が、ついで立松が世に出ますが、北方先生はなかなか機会に恵まれなかったものの、エンターテインメントの世界に進出することで大成功を手にされたわけです。
十年の雌伏時代を経て、北方先生の中から「文学」という言葉が消え、代わりに「物語」が立ち上がってきた、とのこと。このあたりは深いものを感じました。


そんなある時、中上健次から金を無心する電話が来て、「いくらだ」と問うと「二千万」と。北方先生は「それぐらいの金はあるが、お前にはビタ一文やらん」とガチャ切りされたそうです。その後、北方先生が立松和平に電話すると「おれのところにも電話が来たよ」と言われました。「いくらだった」と問うとこれが「二百万」立松和平は「なんでおれが二百万なんだ」と、例の栃木弁で憤っていたそうです。


また、北方先生は世界各地を旅されていますが、ブルキナファソに行かれたときはさすがにショックを受けたとか。まず、入国審査で職業欄に「ノベリスト」と書いたところ「ウチの国にそんな職業はない」といわれ、仕方なく「アーティスト」と書いて入国したそうです。で、飢餓地帯で飢えた子どもたちを目にされたときは、思わず、サルトルノーベル文学賞を辞退したときのセリフ「飢えた子の前で文学は無力である」が頭をよぎったとのこと。
しかし、街に戻ると、文盲の女性が友だちに本を読んでもらって泣いているのを見て、物語の力を再確認されたそうです。
今回の東日本大震災でも、震災から数日は電気がなかったこともあり、本を読んでいた被災者も多いでしょう。岩手県でもとくに被害の大きかった宮古市の田老地区に住む読者から、「『水滸伝』読み返しています」というお便りがきて、また物語の力に救われた気がしたそうです。
これからも、少なくともあと十年は今のペースで書き続けたい、とおっしゃっていました。


震災のときは北方先生はラオスにいたそうですが、出国時に税関でモメたとのこと。どうやら役人が袖の下を要求しているようなので、北方先生は50ドル(20ドル札2枚と10ドル札1枚)渡したそうです。すると、なぜか役人は30ドル返してきました。「For FUKUSHIMA」と言って。いい話です。隣国のベトナムではそんなことはなくて、それがのんびりしたラオスと経済成長を続けるベトナムの違いだともおっしゃっていましたけどね。



講演の終わりには質問コーナーがあり、ぼくも挙手して「草食系男子についてどう思うか」と質問しました。例の一言を期待してのことだったのですが、「勝手にクサでも食ってればいいんじゃない」とはぐらかされ、みごと失敗。まぁ会場には女性もたくさんいましたしね。

試みの地平線 伝説復活編 (講談社文庫)

試みの地平線 伝説復活編 (講談社文庫)


講演会のあとは、大沢在昌先生と司会の池上冬樹先生を交えてのトークショー。大沢先生と北方先生の漫才のような掛け合いに、池上先生はほとんど出る幕がありませんでした。北方先生は巨乳派で大沢先生は美脚派なので女性の好みがカブらない、とか乱歩賞の選考会で二人が大揉めに揉めてつかみ合い寸前になり、間に入った今野敏先生が「心臓が止まりそうになった」話とか、こちらでもイイ話がたくさん聞けました。ちなみに、そのときに賞を争ったのが、福井晴敏池井戸潤だったとのこと。

下町ロケット

下町ロケット


トークショーの後にはサイン会もありました。ぼくも北方先生からサインをいただき、「さっきはヘンな質問してすみません、あの一言が聞きたくて……」と謝ると、「『ソープへ行け!』って書こうか?」と言ってくださいました。
「ぜひお願いします!」と頼んだのですが、「…いや、ダメだ。14年で4回しか言ってないんだからな」と、ふつうのサインをくれました。

サインもいただき、大満足で帰る車中であることに気が付きました。


サインの宛名(メモ用紙を渡され、自分の名前を書く)に「ソープへ行け!」って書けばよかったんだ!